原発事故後の福島県北部の森林生態系における放射性セシウムの分布に関するモニタリング

 

2011年3月の福島第一原子力発電所の事故では、多量の放射性セシウムが、森林を含む周辺の地域に飛散しました。森林生態系内での放射性セシウムの移動・蓄積や生態系からの流出の実態を把握し、それらのプロセスの詳細をあきらかにするために、私たちの研究グループは、福島県北部に位置する森林集水域において、集中的なモニタリングを続けてきました。















その結果、事故から4年を経た2015年現在、1年間に渓流を通して森林から流出する放射性セシウム量は、事故直後に沈着したとされる量に対して2桁以上少ないことがわかりました。しかしながら、大雨による増水が生じると、渓流付近の表層土壌が渓流に洗い流されることがあるので、そのときの放射性セシウムの流出が年間の放射性セシウム流出量の大きな割合を占めることがわかりました。その主要な形態は粒子状の浮遊物質であり、粒子状有機物が重要なキャリアであることがわかりました。
















森林生態系内において、放射性セシウムは落葉層と土壌表層部に最も多く蓄積しています。高木を含む多くの森林内の植物は、この林床の落葉層や土壌表層から放射性セシウムを吸収し、落葉で再度林床に戻すという循環を生じさせていることがわかりました。
























また、森林生態系内に生息している動物を含む生物群集内においても、食物網(喰う喰われるの関係)を通じて放射性セシウムが移行・拡散していることがわかりました。とりわけ落葉やその破砕物を食べる動物から始まる食物連鎖(腐食連鎖)を介した移行は、生葉を食べる動物から始まる食物連鎖(生殖連鎖)を介した移行よりも活発にすすんでいました。しかし、栄養段階が上昇するにつれて(喰う喰われるの関係が上位に行くにつれて)放射性セシウムの濃度が上昇するということはなく、いわゆる「生物濃縮」が生じていないことが明らかになりました。



















これらのことについて、以下のような論文に発表しました。


Ishii, N., Murakami, M., Suzuki, T., Tagami, K., Uchida, S. and Ohte, N. 2018. Effects of litter feeders on the transfer of 137Cs to plants. Scientific Reports 8(1), 6691, doi:10.1038/s41598-018-25105-4.

Endo, I., Ohashi, M., Tanoi, K., Kobayashi, N.I., Hirose, A. and Ohte, N. 2018. Studying 137Cs dynamics during litter decomposition in three forest types in the vicinity of Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant. Journal of Forest Research 23(2), 85-90, doi:10.1080/13416979.2018.1460189.

Pumpanen, J., Ohashi, M., Endo, I., Hari, P., Bäck, J., Kulmala, M. and Ohte, N. 2016. 137Cs distributions in soil and trees in forest ecosystems after the radioactive fallout – Comparison study between southern Finland and Fukushima, Japan. Journal of Environmental Radioactivity 161, 73-81, http://dx.doi.org/10.1016/j.jenvrad.2016.04.024.

Endo, I., Ohte, N., Iseda, K., Tanoi, K., Hirose, A., Kobayashi, N.I., Murakami, M., Tokuchi, N. and Ohashi, M. 2015. Estimation of radioactive 137-cesium transportation by litterfall, stemflow and throughfall in the forests of Fukushima. Journal of Environmental Radioactivity 149, 176-185, http://dx.doi.org/10.1016/j.jenvrad.2015.07.027.

Murakami, M., Ohte, N., Suzuki, T., Ishii, N., Igarashi, Y. and Tanoi, K. 2014. Biological proliferation of cesium-137 through the detrital food chain in a forest ecosystem in Japan. Scientific Report 4, doi:10.1038/srep03599.

放射性セシウム(Cs)が、浮遊物質(SS)と伴に流出しています。水の流出量が最大になる前に、それらの濃度はピークに達します。このことは、渓流の周辺の表層にある土砂を洗い流していることを示しています。

2012年から2014年にかけて、樹木の生葉の放射性セシウム(Cs)濃度は減少しました。材(幹)の中の濃度は、生葉や樹皮に比べて2桁低いですが、上昇しました。このことは樹体内への移行がまだ進んでいたことを示していました。

落葉よりも落葉を食べる動物(昆虫など)、それよりもそれらを食べる捕食者の方が放射性Cs濃度は低くなっています。これらのレベルは、生葉を食べる動物(昆虫など)よりも顕著に高かったです。