フーヨン島的生活

2003年 5月16日 〜 6月1日

はじめに

 フーヨン島はアンダマン海に浮かぶ無人島、シミラン諸島の最南端の島です。シミラン諸島周辺の豊かな自然は、タイ国立公園に指定されており、全ての野生動植物の捕獲が禁止されています。特にフーヨン島はアオウミガメの産卵場として重要な役割を果たしており、タイ国海軍により産卵浜の警備と産卵個体の調査が行われています。3人編成の調査隊は15日間交代で入れ替わり、交代の際に15日間分の食料と水を運びます。私たち生物圏情報学講座のウミガメ班は2003年5月16日から31日までの調査に参加しました。ここでは、フーヨン島での生活を中心に調査内容について報告したいと思います。

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午前9時 起床

 午前9時をまわったあたりから聞こえてくるラジオ放送・軍人さんの笑い声・未確認鳥類の怪しい鳴き声が、私たちの一日の始まりの合図となります。前夜の調査の疲れがとれていない重い身体を無理矢理起こしてテントから外に出ると、頭上から「キンカフェー!(コーヒー飲みなよ)」と朝から張りのいい声が。軍人さんは朝から元気です。私たちの普段の運動不足が身にしみて感じる瞬間です。フーヨン島の朝食は、コーヒーとクラッカーといった調理のいらない軽い食事をとります。朝は私たちだけでなく、鳥たちやトカゲも活動が盛んになります。フーヨン島には七色に輝く飛べないハト(どうやってこの島にきたんだろう?)や60cm程あるオオトカゲが住んでいます

 

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DSCF0006.JPG DSCF0007.JPG DSCF0039.JPG 午前9時半から昼まで 雑務

 朝食後の仕事は日によって変わります。調査拠点や周辺の掃除をしたり、船の補修をしたりと様々です。この日は未明に産卵した個体の卵を移植する作業を行いました。フーヨン島の砂浜のほとんどは満潮時になると波をかぶってしまうため、多くの卵が孵化しにくい状況にあります。そこで、現在は海軍が確認した全ての卵を孵化場へ移植するという作業を行っています。卵の移植は孵化率を低下させてしまうのですが、このフーヨンしまにとってはやむを得ない作業なのかもしれません。卵の天地のむきを変えないように慎重に移植します。移植した卵は、およそ2ヶ月後に孵化し、海軍の飼育施設で約1年間飼育されてから放流されます。孵化後まもない稚ガメではなく、ある程度の大きさになってから放流する試みは、ウミガメの個体数回復に大きく期待されてます。しかしながら、飼育されることにより、ウミガメにどんな影響が与えられているかは依然分かっておらず、影響度の研究、再野生化に関する研究が必要であると考えられます。

 朝の雑務を終えたら昼食です。昼食は前日のおかずの残りに加えて、簡単に調理できる卵焼きなどが主なメニューとなります。みんなで揃ってわいわい食べます。午後に食べる間食がある日は、昼食と一緒につくります。間食は緑の小豆を砂糖で煮たものや、そこらへんにあるココナッツを割ってタピオカや芋と煮たものを作りました。日本では、私はあまり甘い物はとらないのですが、フーヨン島では常に疲労が溜まっているのか、無性に甘い物が欲しくなります。

 

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DSCF0029.JPG DSCF0004.JPG DSCF0037.JPG 昼から午後7時まで 昼寝・サッカー・水泳・晩ご飯など

 昼食後は基本的にフリータイムです。研究室の隣の席の三田村さんの本棚から勝手に拝借した本を読みながら、そのまま昼寝に突入するのが今の日課となっています。午後3時を過ぎたあたりから、みんな起き出すのにつられて私たちも活動を再開します。再び本を読む日もりますが、大抵はトレーニングセンター(勝手にそう決めてる)で筋力トレーニングを行ったり、砂浜をジョギングしたりして汗を流します。海軍の人たちはビーチサッカーが大好きなので、よく誘われます。サッカーは楽しいのですが、海軍の体力についていけず、いつもばててしまいます。夜の調査に入ったときに「あの時サッカーしなければよかった」と毎度のことながら後悔します。私たちがばててる一方で軍人さんは元気満々です。サッカー後にもかかわらず、ひたすら筋力トレーニングに励む海軍の体力には脱帽です。汗を流した後は、シャワールームで身体を洗います。フーヨン島では地下水を汲み上げて飲料水以外の水を確保しています。地下水は茶色く濁っていて、到底きれいと呼べるものではありませんが、以外に冷たく気持ちよく身体を洗えます。身体を洗った後は、晩ご飯の準備をします。キッチンで思い思いの料理を調理していきます。タイ料理に欠かせないハーブや唐辛子も大量に使います。これらの香辛料は、そのまま使用するときもあれば、石臼でひいてペースト状にして使うときもありと様々です。タイの人の口に合うかどうか気にしながら、私たちも調理に参加します。この日の夕食メニューは焼いた鯵(鯖?)とタロイモ・タマネギ・ニンニク入りの卵焼き、魚のカレーです。

 

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DSCF0041.JPG DSCF0042.JPG DSCF0024.JPG 午後9時から午前4時まで ウミガメ調査

 午後8時になると発電器が止め、砂浜に明かりが差し込まないようにします。その日の潮の具合によって調査の開始時刻はまちまちですが、大体午後9時か10時に開始します。全長およそ800mの砂浜を歩いて産卵上陸するウミガメを探します。フーヨン島で産卵するアオウミガメの1シーズンの産卵回数は6−10回です。私たちの調査期間である5月は、3月から産み始めた個体4頭の産卵が期待されています。5月16日に1頭目の産卵がありました。この個体の遺伝子を調べるために、肉片を採取しました。また、この個体は識別用のマイクロチップが埋めこまれていなかったため、マイクロチップを前足の付け根に埋め込みました。

 調査は遅いときで午前5時まで続きます。調査が終わるころにはもう身体はへとへとです。

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