新しい発見

バイオロギングは、まだ始まったばかりの先端的なテクノロジーです。自然のままの動物から取得されたバイオロギングのデータは、ほとんどが今まで知られていない新しい知見をもたらします。その解析から、いま、こんなことが発見されているのです!

 

2013年の発見

ヒレナガゴンドウの同調潜水とボディーコンタクト

2013年8月30日 報告者 青木かがり St.Andrews大学

 同調行動は様々な場面(例えば、蛍の発光、動物の群れが方向を変える時、など)でみられる。イルカやクジラも例外ではなく、同調行動は社会的関係の指標にもなっている。海や水族館でイルカが泳ぐのをみていると、何頭か同調して泳いだり、呼吸したりしている。イルカを見慣れた人には当たり前かもしれないが、なぜあれほどピッタリと息を合わせて行動できるのか? 以前から不思議に思っていた。今回、ノルウェーの沿岸域で、一緒に泳いでいたヒレナガゴンドウ3頭のうち1頭に加速度計を、もう一頭にカメラロガーを取り付けることができた(写真1)。この2頭は、水面での呼吸はもちろん、深度数十メートルの浅い潜水でも数百メートルの深い潜水でも同調して潜水を行っていた。同調潜水中は、潜水深度に関わらず互いの深度差を一定に保っており、互いに遊泳速度を合わせるように、或は一方が他方に速度を合わせるように調整していることがわかった。

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写真1.ロガーが装着されたヒレナガゴンドウ。

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図1.ロガー装着個体の潜水深度。a 全体図。b 拡大図。図aの点線部分を拡大した。

 ヒレナガゴンドウに取り付けたカメラロガーでは、体や胸びれを他のクジラの体に接触するような行動が撮影された。このような行動はボディーコンタクト、なかでもゴシゴシとこすりつけるような行動はラビングと呼ばれ、霊長類でみられるグルーミングと同じような行動だと考えられている。これまで、ボディーコンタクトはイルカや飼育下のゴンドウで観察されてきたが、野生のゴンドウのボディーコンタクトを、カメラロガーを使って初めて捉えることができた。他個体の胸びれがカメラロガー装着個体の体に触れる行動が最も多く観察され、次いで互いの体に触れる行動が観察された(図2)。一方、カメラロガー個体の胸びれが他個体に接触する、という行動は観察されなかった。この結果のみで個体間の関係を推察することはできないが、動物の社会行動を調べる上でも、バイオロギングが有用であることを示すことができたと思う。

中性浮力が一番楽!

2013年7月17日 報告者 佐藤克文 東京大学大気海洋研究所

身の回りを飛んでいる小鳥をよく見ると、数回羽ばたいた後に、翼をぴたっと体につけて惰性で進み、再び羽ばたくことを繰り返している。いくらか大型の鳥になると、羽ばたいた後、翼を広げたまま滑空し、再び羽ばたくようになる。これら2種類の断続的羽ばたき飛翔を横から眺めると、羽ばたいている時の上昇と羽ばたいていない時の下降が連続し、軌跡が蛇行していることが見て取れる。直線的に飛ぶよりもいくらか移動経路は長くなるが、鳥の飛翔に要するコスト節約に役立っていることが理論的に予測され、風洞実験などによってその予測は検証されている。

バイオロギングの主な対象種である水生動物の行動を見ると、水平方向に移動する間も、何故だか鉛直移動を繰り返していることがある。一見、鳥の断続的羽ばたき飛翔に似ているこの移動方法が、水生動物の水平移動に要するコストを節約しているとする論文が2011年に公表された(Gleiss et al. 2011 Nature Communications, doi:10.1038/ncomms1350)。

本当だろうか?断続的羽ばたき飛翔をする鳥が上下動するのは、揚力と重力の大小関係が時間と共に入れ替わるためであって、例えば、飛行船のように重力に釣り合う浮力を持っていれば、あえて上下動する必要は無いはずだ。水生動物の場合、重力と浮力が釣り合っていない場合はいくらか上下動するかもしれないが、二つの力が釣り合った中性浮力状態であれば、上下動は無くなり、その時の移動コストが最小になるはずだ。そんな仮説を検証するために、ゾウアザラシとバイカルアザラシを対象に行った重りや浮きの切り離し実験データを解析し、中性浮力から外れる体密度を持つ程、水平移動のコストは増大してしまうという結論を得た。

これまで、バイオロギングによって得た野外データを解析し、仮説と共に結果を示すといったスタイルの論文を書いてきた私にとって、初の仮説検証型論文となった。1年弱を要したレフリーとのバトルは、これまでで最もアウェーでタフなやりとりであった。過去の経験によると、産みの苦しみを経た論文ほど公表後は評判が良いので、今回の作品にも過大な期待をしている。

Sato, Aoki, Watanabe and Miller. Neutral buoyancy is optimal to minimize the cost of transport in horizontally swimming seals. Scientific Reports 3: 2205. DOI: 10.1038/srep02205. http://www.nature.com/scientificreports

加速度でアオウミガメの産卵行動を特徴づける

2013年7月13日 報告者 西澤秀明 京都大学大学院情報学研究科

ウミガメ類は、その名のとおり、生活史のほとんどを海の中で過ごします。そんなウミガメ類にも陸に上がるときがあります。それは産卵するときです。産卵行動は適応度に直接的に関係するにも関わらず、これまで十分に研究が行われてきたとはいいがたい状況でした。

ウミガメ類の産卵行動は(1) 移動、(2) ピット掘り、(3) ネストホール掘り、(4) 産卵、(5) 穴埋め、(6) カモフラージュのという段階を踏むことが知られています。本研究では、これらの段階を3軸加速度で特徴付けました。各段階の行動について、動的加速度、静的加速度の平均、標準偏差(SD)、二乗平均平方根(RMS)、レンジ、卓越周期、振幅などの変数を計算し、C4.5を使用した決定木を作成しました。加速度を使用した行動分類については様々な研究が行われていますが、それぞれの行動段階を既知のものとして、その分類ルールを定めるという手法をとりました。

上記の6段階をわける決定木を作成したところ、樹形は複雑になり、また分類の正解率も76.5%とそれほど高くありませんでした。これは、ピット掘りとカモフラージュが類似の運動を含むことによると考えられます。これらを統合した5つの行動については、比較的単純な決定木による分類が可能であり(図1)、正解率も86.2%にまで上昇しました。また、決定木の分類ルールから、その行動について特徴付けることができました。今回の分類ルールは、ウミガメ類の産卵行動段階の時間割合やエネルギー消費、産卵に適した海浜環境や人間の影響を考える上での基盤となるものといえます。

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図1 アオウミガメの産卵行動段階をわける決定木

余談ですが、この研究成果は、計画段階から予定していたものではありません。もともと、奥山隼一さんらとアオウミガメの産卵間期中のデータを取ることを主目的としていたところ、実際に野外調査をするなかで、安田十也さんと「産卵しているときのデータもとれているのでは?」と盛り上がり、野田琢嗣さんと「加速度で各行動の段階を特徴づけていってはどうだろう」と方向性を決めて行われた研究です。バイオロギングデータの解析にあたっては、まだまだデータ主導の研究も多いと思いますが、身近な人とのディスカッションから成果が得られたよい例かと思います。

Nishizawa H, Noda T, Yasuda T, Okuyama J, Arai N, Kobayashi M (in press) Decision tree classification of behaviors in the nesting process of green turtles (Chelonia mydas) from tri-axial acceleration data. Journal of Ethology DOI 10.1007/s10164-013-0381-1

アオウミガメ亜成体のエソグラム:海棲草食大型動物の行動戦略

2013年6月20日 報告者 奥山隼一 アメリカ・NOAA National Marine Fisheries Service, Southwest Fisheries Science Center

本研究ではアオウミガメ亜成体の摂餌行動をメインに、休息、遊泳などの行動が、どこで、いつ、どのように行われているのかを解析しました。摂餌行動の解析は、頭部に付けた加速度ロガーと甲羅に付けたビデオロガーを用いて調べ、さらにそれを潜水データと対応させて深度データからも摂餌行動を推定しました。 

その結果、アオウミガメは1日平均4.8時間、摂餌のために海草藻場を訪れていました。またその時間帯は朝6時頃と夜18時頃に集中していました。この特異的なパターンはどのようにして現れるのでしょうか?答えは、消化器官の長さにあると考えています。他のアオウミガメやジュゴンなどの海棲草食動物の摂餌に関する文献を調べたところ、大きさに比例して摂餌時間が長くなっているようでした。そしてこの理論は陸生草食動物では既に知られています。今回実験で用いたアオウミガメは亜成体でしたので、朝から摂餌を始めたものの、昼頃にお腹一杯になり休息。その後再びお腹が減ってきた時に摂餌を行う。このような理由のため、1日2回の規則的な摂餌パターンが見られるのではないでしょうか。もちろん藻場における餌料が豊富であったり、潮汐の影響がなかったりという前提はあるのですが。

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図1 アオウミガメ亜成体の1日における摂餌時間帯

その他の行動を見てみると、アオウミガメ亜成体はほとんどの時間を休息に費やしていました。そしてその休息場所は摂餌藻場に極めて近い、リーフエッジのサンゴ礁下などでした。これはアオウミガメの休息にとって、余分なトラベルコストを使わず、外敵から攻撃されるリスクを減らせる理想的な場所です。アオウミガメ亜成体はこのような理想的な場所で、摂餌を行う以外はひたすら休んで獲得エネルギーを成長に回す成長戦略をとっているものだと考えられます。

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図2 アオウミガメ亜成体のエソグラム.白色が摂餌、灰色が休息、黒色がその他の行動を示す.

Okuyama J, Nakajima K, Noda T, Kimura S, Kamihata H, et al. (2013) Ethogram of Immature Green Turtles: Behavioral Strategies for Somatic Growth in Large Marine Herbivores. PLoS ONE 8(6): e65783. doi:10.1371/journal.pone.0065783.

2012年の発見

氷の上で一休み:採餌旅行中のエンペラーペンギンの行動時間割合

2012年12月26日 報告者 渡辺伸一(福山大学)  研究室のHPはこちらです

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氷上でたたずむエンペラーペンギン(写真提供:佐藤克文)

育雛中のエンペラーペンギンの親鳥は、雛へ与える餌を獲るため、氷上の繁殖地から外洋へと長期間の採餌旅行へと出かける。採餌旅行中の親鳥が、どのくらいの時間を採餌に費やすのか、また外洋に出かけた親鳥が海氷に上がって休息や移動をどのくらい行うのかはこれまで知られていなかった。 本研究では、エンペラーペンギンの採餌旅行中の行動時間割合をはじめて明らかにした。南極ワシントン岬周辺で繁殖中の親鳥10羽に長期間計測可能な加速度データロガーを装着して、採餌旅行中の行動を記録した。得られたデータから、氷上と水中でのペンギンの行動を9タイプに分類し、それぞれの行動タイプが占める時間割合を分析した。

その結果、親鳥は平均約14日間に渡る採餌旅行のうち、約7割を水中で過ごし、残りの約3割を氷上で過ごした。水中に入った親鳥は、平均5時間に渡ってほとんど休みなく潜水を繰り返して採餌し、その後、海氷に上がって平均2.5時間を過ごした。海氷に上がった親鳥は、氷縁部から離れるため短時間の移動を行うが約9割の時間を立った状態で休息した。また、海中で過ごす時間が長いほど、その後に海氷に上がって休息する時間は長かった。こうした水中での採餌潜水と氷上での休息のサイクルは、白夜の南極海において昼夜を問わず24時間行われた。

南極海で繁殖する他種のアデリーペンギンが主に日帰りの採餌旅行を行い、そのうち3割程度の時間しか潜水に費やさないのに対し、エンペラーペンギンの採餌旅行の期間は長く、採餌に費やす時間割合も高い。これは、大きな雛を成長させるためのエンペラーペンギン独特の採餌法だと考えられる。海氷は、ヒョウアザラシなど海中の捕食者から逃れて安全な休息を取るために不可欠であり、海氷での小休止によって、多くの時間を採餌潜水に費やし、長期的な採餌旅行を継続することができるのだと考えられる。もし、地球温暖化等で海氷が減少した場合には、このエンペラーペンギンの特殊な子育てが困難になるのかもしれない。

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この調査は、共著者の佐藤克文氏(東京大学大気海洋研究所)とPaul Ponganis氏(スクリップス海洋研究所)が2005年に行ったものである。そこで得られたデータをもとに、エンペラーペンギンの長期の採餌旅行中の行動時間割合の算出を目指していたが、ようやくその成果を発表することができた。発表までにこんなにも時間がかかってしまったのは、私が論文執筆を怠っていたのが最大の理由であるが、それとともにデータ解析用プログラムの開発に時間がかかってしまったのも大きな理由である。

佐藤氏らが南極でこの調査を行っていた頃、私はイエネコから得られた加速度データから行動を分類する研究を発表した(Watanabe et al. 2005)。 もともと私はバイオロギングの分野で研究していたわけでなく、同じ頃にまとめていたイリオモテヤマネコの採餌行動に関する学位論文には、データロガーをもちいた研究はない。イリオモテヤマネコをはじめ直接観察が困難な陸生動物の研究でも、バイオロギングが将来有効であること確信して、バイオロギング研究を並行して行っていた。 イエネコの加速度データの解析では、それまで水生動物の研究で一般的に行われてきた、加速度から翼や鰭の動きをカウントして行動を量的に評価するという手法をもちいず、加速度の周波数特性を高速フーリエ変換によって連続的に解析することで、行動を質的に評価する手法をもちいた。この手法は、連続的に周波数スペクトルを算出するという音声データの解析からヒントを得たものである。その頃、イリオモテヤマネコの餌資源量を森林内で録音した音声データから評価するという試みを行っていたからである。

イエネコの論文で開発した手法は、周波数解析を半ばマニュアルの作業で行っていたため、分析には多大な時間を要した。イエネコの研究で使用した加速度ロガーの記録期間は4日間と短いため、時間をかければ解析を行うことができたのだが、エンペラーペンギンで使用したロガーは最長14日間計測できるものであり、調査個体数も多かったため、より効率のよいアルゴリズムの開発が必要だった。当時、すでにロガー(ハード)は計測項目や記録時間が急速に進歩していたのだが、ソフト面での開発が追い付いていなかったのである。 加速度データの解析を大きく進歩させたのが、坂本健太郎氏が開発したバイオロギングデータ専用ソフトウェアEthographerである(Sakamoto et al. 2009)。私がイエネコの論文の中で、加速度データによる行動分類の自動化の必要性と、そのための連続ウェーブレット変換(CWT)の適用の有効性を指摘したが、そのイメージ通りにソフトウェア化されたのがEthographerである。エンペラーペンギンの行動分類では、加速度データの周波数解析をEthographerのCWT機能により効率よくできたことが大きい。

本研究で開発したアルゴリズムは、ペンギン類のような水生動物の研究だけでなく、さまざまな陸生動物の研究でも適用できると考えている。例えば、現在、私が取り組んでいるチーターの行動分類でもこのアルゴリズムが有効であることが予想される。

いまや加速度ロガーは、海外の研究者にも注目され、海外のメーカーでも開発が進む。しかし、その利用方法をみると加速度から運動強度(のようなもの)を算出して、行動を量的に捉えて消費エネルギー量(のようなもの)を算出した研究が目立つ。しかし、加速度センサが計測した値は、ロガーに加わった重力加速度や動的加速度を計測したもので、それで動物自身が産出する運動(エネルギー)を評価できるとは思えない。しかも、高周波でサンプリングした加速度データはデータ量が膨大となるため、ある時間間隔で間引いたり、平均化したりするなどして得られた値をもちいる場合も多く、動物の行動をうまく再現しているとは言い難い。高周波でサンプリングした加速度データから、行動を高精度で質的に評価(つまり、秒間隔で休んでいるのか、餌を食べているのか、歩いたり、走ったりしているのかなど詳しく行動を判別)する方が、われわれの予測と比較するための資料として都合がよいのではないかと思う。加速度データの解析には、まだまだ不十分な部分もあり、今後も開発が期待されるところである。しかし、この分野では、まだ「日本の研究が他国をリードしている」といえるのではないだろうか。

Watanabe S, Sato K, Ponganis PJ (2012) Activity Time Budget during Foraging Trips of Emperor Penguins. PLoS ONE 7(11): e50357

ヒラメの産卵行動

2012年12月20日 報告者 安田十也 (独)水産総合研究センター西海区水産研究所

 漁業資源を管理しようとする上で、一産卵期における雌一尾の産卵数がどのように変動するのか知ることは、親魚の資源量や新規加入量等を推定するために重要です。魚類の繁殖特性は複雑であり、生殖腺の組織学的なアプローチが主流となって、様々な魚種で研究されています。しかし、海洋に生息する魚類において、同一個体から繰り返し卵細胞等の試料をサンプリングすることは非現実的であり、個体の環境履歴と繁殖履歴との対応が大きな課題となっています。それゆえ、環境をコントロールできる飼育実験や野外における環境・行動履歴を取得できるバイオロギングに期待が寄せられています。

 本研究では、データロガーでヒラメの産卵行動を記録できるのか調べるために、産卵期間中の個体に深度データロガーを装着しました(図1)。また、個体の回収後に生殖腺を観察し、データロガーの結果と比較しました。

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図1.一連のヒラメ調査の一風景。回収できるようロガーに祈りを込めているところ。

 得られた深度の時系列データをじっくり見ていると、規則正しい深度変化がいくつかの個体で同じようなタイミングで表れていました(図2)。ウミガメ類などの潜水行動を解析するのと似たような要領でデータを解析すると、これらの行動イベントは鉛直遊泳速度、遊泳時間、遊泳高度等が他の行動イベントと比べて特徴的で、クラスタ解析等を利用することで特定できそうな感触を得ました。

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図2.産卵期中のヒラメの深度時系列データの拡大図。矢印はクラスタ解析で分類された産卵行動と思われる行動イベントを示している。

 生殖腺の観察結果より、上で見られた行動パターンは、卵巣内に成熟卵や排卵後濾胞があった個体、すなわち記録期間中の産卵が示唆される個体で出現していることが分かりました(図3)。卵巣内に、成熟卵のない個体や、atresia(閉鎖卵胞。過度なストレスがかかった時にも出現する。)が多く見られた個体では、このような行動パターンは"殆ど"みられませんでしたが、このようなノイズと思われる行動イベントの扱い方は重要な課題と考えています。

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図3. 回収個体の卵巣の組織切片。EYG: 前期卵黄球期、LYG: 後期卵黄球期、POF: 排卵後濾胞, AT: 閉鎖卵胞。バーは500μm。

文献

Yasuda T, Katsumata H, Kawabe R, Nakatsuka N, Kurita Y (2013) Identifying spawning events of Japanese flounder Paralichthys olivaceus from depth time-series data. Journal of Sea Research 75: 33-40.

メバルの短距離回帰行動

2012年9月30日 報告者 三田村啓理 京都大学大学院 情報学研究科

動物は産まれた場所や巣穴などの特定の場所へどのように戻ってくるのか。サケ・マス類、ウミガメ類などが数千kmにもおよぶ長距離を移動して産まれた場所に回帰することはとてもよく知られており、どのように回帰するのかについて多くの研究成果が報告されています。このように長距離を回帰する動物に対して、数十から数百mの短い距離を回帰する動物も多くいます。そして行動範囲の狭い動物が何らかの理由によりその行動範囲から大きく離れた場所に移動したとしても、迷わず行動範囲に戻ってくることが報告されています。

1970年代よりメバル属魚類は、行動範囲から数十mから数km離れた場所に移動させてもすぐに行動範囲に戻ってくることが報告されるようになりました。このような短距離の回帰行動を示す魚類は、今ではメバル類だけでなくハタ類、アイナメ類などでも知られています。短距離回帰する動物は長距離回帰する動物よりも比較的回帰行動を研究しやすいため、我々は主にメバル属魚類を対象として“どのように”行動範囲内の巣穴に回帰するのかという疑問に対して研究をおこなってきました。

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図1 (左図)実験をおこなった横須賀市浦賀港。垂直護岸に囲まれる。VRAPシステムの3つのブイが海面に浮かぶ。(右図)実験にもちいたVRAPシステム。3つの受信機をもちいて超音波発信機を測位する。

本研究では、高精度(水平精度:2m)に測位可能なテレメトリーシステム(VRAP、Vemco社)をもちいて、シロメバルSebastes cheni8個体の夜間の回帰行動を調べました(図1)。捕獲地点から70m離れた行動範囲の外に放流したメバルは、放流直後は放流地点付近の泥場の海底で地域限定探索をおこないました(図2,3)。この探索中の移動方向は、流向(上流および下流)と一致しており、巣への方向とは異なる方向でした。流れに沿ってウロウロとしながら巣穴の方向を探していたと考えられます(図3)。

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図2 (B)三角:岩場、菱形:VRAPシステムの受信機の設置位置、丸:流向流速計の設置位置。(C)8個体の回帰経路。実線は1回目の放流個体、破線は2回目の放流個体を示す。

最終的にシロメバルは行動範囲内に戻りました。移動速度は速くなり、また底を離れて浅い深度で、直線的な移動を示して、巣に戻りました。この遊泳深度は、シロメバルを捕獲した深度および普段遊泳している深度と一致していました。

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図3 8個体の回帰経路。放流地点付近の円は、地域限定探索をおこなった場所を示す。経路中の四角は、最終的な直線移動を開始した地点を示す。灰色の場所は、行動圏を示す。

これまでの研究により、メバルは回帰には主に嗅覚器官を利用していることが明らかになっていました。本研究の結果から、短距離の回帰にメバルは嗅覚だけでなく視覚も効果的に併用している可能性があることがわかりました。

Short-range homing in a site-specific fish: search and directed movements Hiromichi Mitamura, Keiichi Uchida, Yoshinori Miyamoto, Toshiharu Kakihara, Aki Miyagi, Yuuki Kawabata, Kotaro Ichikawa and Nobuaki Arai The Journal of Experimental Biology 215, 2751-2759

ウミガメの潜水行動にみられる規則性:活動量の観点から

2012年7月20日 報告者 奥山隼一 アメリカ・NOAA National Marine Fisheries Service, Southwest Fisheries Science Center

以前に塩見さんからペンギンはいつ水面へ戻り始めるか?という報告がありましたが、今回はそれのウミガメ版ともいうべきものです。

ウミガメ類の潜水の多くは、好気呼吸の範囲内で行われていると考えられてきました。一方で、アカウミガメやオサガメ等の比較的深い水域に潜るはカメ類ではAerobic Dive Limit(ADL)を超えているのではないか?という潜水も報告されています。 しかし、これらに関する既存研究では、酸素消費の考察に必要な”活動による酸素代謝”という観点が欠けていました。

本研究では、加速度データロガーを用いて、潜水中の活動量、潜水時に肺への吸気量を算出し、ウミガメの好気呼吸時における潜水時間と潜水時の体内酸素貯蔵量、潜水中の代謝量をモデル化しました(図1)。このモデルのような結果が得られるということは、ウミガメが毎回ある一定量まで体内の酸素を消費している(おそらくほぼ使い切っている)ことを意味します。なお、本モデルは水温が一定の場合に限ります。

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図1 好気呼吸を行った場合のウミガメの潜水時間(縦軸)、潜水中の平均活動量(横軸)と潜水時の肺への吸気量の関係(a<b<c)。水温が一定の場合

このモデルを用いて、ウミガメの一種、タイマイは自然環境下においてどのような潜水を行っているのかを調べました。

実験の結果、タイマイの潜水行動における潜水時間、潜水中の平均活動量と潜水時の肺への吸気量の関係はモデルで予測されたような結果となりました。これは、タイマイの潜水時間は体内の残存酸素量によって規定されていること、また体内の酸素を毎回ほぼ同じ量まで消費してから浮上していることを意味します。

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図2 実験の結果得られた、タイマイの潜水行動における潜水時間(縦軸)、潜水中の平均活動量(横軸)と潜水時の肺への吸気量(○<●<△)の関係。論文内では軸の値を揃えるために、見た目不十分な図となっていますが、個体内でみるとよりクリアな関係性が見られます。

一方、潜水時間、潜水中の活動量と潜水後の海水面滞在時間を調べたところ、潜水時間、潜水中の活動量が増加するにつれて、海水面滞在時間も増加する傾向がみられました。といっても、この表層滞在時間はわずかなものではあるのですが。

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図3 潜水時間(横軸)と潜水後の表層滞在時間(縦軸)の関係

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図4 潜水中の活動量(横軸)と潜水後の表層滞在時間(縦軸)の関係

これは何を意味するのでしょうか? 前述のように、毎回の潜水において毎回一定量まで体内の酸素を消費しているとするのなら、潜水後の換気は毎回ほぼ同じ時間で済むはずです。潜水時間(∝基礎代謝)や潜水中の活動量(∝活動代謝)と関係性があるということは、タイマイもやはり嫌気呼吸を行っているのでしょうか?

本論では、以下のように考察しています。「タイマイの潜水時間を規定するのはあくまで体内の貯蓄酸素量であり、タイマイは体内の酸素貯蓄量が少なくなると浮上する。一方で、末端部などでは潜水中に酸素がいきわたらず、わずかながらに嫌気呼吸が行われる。これにより累積した乳酸を分解するために、潜水後の海水面滞在時間が増加する。」

本研究では、浅海域を主に生息域とするタイマイで研究を行いましたが、外洋域に生息し、深場まで潜水することで知られるオサガメ、アカウミガメやヒメウミガメでは異なる結果が得られると予想しています。上記のモデルを用いることで、体内の酸素残存量など具体的な数値を提示することはできませんが、各パラメータの関係からウミガメ類がどのような潜水を行っているのかを推測することは可能となります。

Okuyama J., Kataoka K., Kobayashi M., Abe O., Yoseda K., Arai N. (2012) The regularity of dive performance in sea turtles: a new perspective from precise activity data. Animal Behaviour 84:349-359.

養殖現場でバイオロギング

2012年6月11日 報告者 安田十也((独)水産総合研究センター西海区水産研究所)

養殖と言えばマダイやハマチが有名です。最近ではクロマグロの養殖が話題なりました。あまり知られていませんが、マサバなどの大衆魚を育てている生簀もあります。

海の養殖は、魚だけをみても、対象とする(品種ではなく)種や飼育方法が豊富です。魚種によっては、安価・安定供給を目指すものから、餌や環境に産地特有の変化を持たせて味・見た目などに付加価値をつけたものまで色々あります。そのあたりはブロイラーとブランド地鶏のように陸上の畜産物とよく似ているかもしれません。しかし、魚を相手にすると、簡単に触ることができないばかりか、普段の様子すら観察が大変です。そのため、養殖現場の現状評価や創意工夫のしどころがどこにあるのかは、断片的な情報から推測せざるを得ません。バイオロギングは、目で見えない動物の生活を数値や映像で示してくれる方法です。生簀で過ごす魚たちに対しても、他の環境で過ごす魚たちと比較できるかたちで表すことが出来れば、各地の特色を生かした最適な養殖方法のヒントが見つかるかもしれません。

本研究では試験的に加速度データロガーを取り付けたマダイを養殖生簀で飼育して行動を観察しました(図1)。ロガー付きマダイは、周囲の心配をよそに(見た目では)元気に遊泳し、表層での餌取り合戦にもしっかり参加していました。

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図1 養殖生簀で泳ぐ白いデータロガーを付けたマダイ

別途、回流水槽(図2)を利用して得た酸素消費量との関係式(図3)を利用すると、この生簀内でのマダイの代謝率は13.9-14.8 kcal/kg/日と推定され、実験中に給餌で与えたエネルギーの15−19%に相当していました。この値の解釈にはさらなる実験が必要ですが、将来的な実用に向けて期待できそうです。

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図2 回流水槽で遊泳時の酸素消費量を計測中のマダイ

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図3 加速度データロガーから得た運動量指標値と遊泳速度、酸素消費量との関係

データロガーについた深度センサの結果をみると、短い期間ながらも、マダイが生簀をどのように利用しているかも伺えました(図4)。給餌時間を除けば、表層にいる魚はめったに中層・低層に移動せず、逆もまたそうでした。

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図4 養殖マダイの滞在深度、水温、運動量指標値の時系列図と滞在深度の頻度分布図。

将来的に養殖魚のバイオロギングデータが充実すれば、生簀の設計や飼料効率の正確な推定などに役立つと考えられます。そして、運動や周辺環境のデータが、天然魚などとの比較を通じて、養殖魚の良さをうまくアピールすることに繋がれば、養殖産業の経営戦略として新たな展開が生み出されるかもしれません。

Yasuda T, Komeyama K, Kato K, Mitsunaga Y (2012) Use of acceleration loggers in aquaculture to determine net-cage use and field metabolic rates in red sea bream Pagrus major. Fisheries Science 78: 229-235.

バイオロギングと種の保全

2012年6月6日 報告者 渡辺佑基(国立極地研究所)

中国の揚子江に生息するカラチョウザメは、世界最大の規模をほこる三峡ダムの建設をはじめとする数々の利水、開発プロジェクトの影響を正面から受け、急速に数を減らしてしまった。いまではIUCNレッドリストの絶滅危惧種および中国の国家一級保護動物に指定されており、いわば世界一の経済大国へと驀進する中国の負の側面を象徴するような動物である。

このカラチョウザメの保全に役立つ生態情報を得ることを目的に、バイオロギング調査を行った。

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産卵のために揚子江をさかのぼってきた体長3mにもなる大きなチョウザメにデータロガーをとりつけ、自然状態での行動を記録した。私たちの過去の研究では、深さが100m以上もあり、チョウザメにとって不自然な環境であるダム湖での行動データを報告している(Watanabe et al. 2008, J. Zool.)。二つのデータを比較することにより、どのような行動がダム湖でしか見られない不自然な行動なのか、そして、どのような行動が種として自然な行動なのか、あぶりだすことができる。

チョウザメは水面から川底まで上下に往復しながら活発に泳ぎ続けた(図1)。このようなパターンはダム湖と大きく異なっていた。ダム湖に放流した個体の約半分は、湖底に沈んでべったりと張り付いてしまい、ほとんど動かなくなったからである。

また、チョウザメは平均して一時間に三回の頻度で水面に顔を出していた(図1) 。浮力調整のために空気を口から吸いこんでいると考えられるが、このパターンはダム湖でも見られた。

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(図1) カラチョウザメの遊泳パターン。矢印は水面に顔を出した時間を示す。

ここから示唆されることは二つある。ひとつは、ダム湖で見られた湖底に張り付くパターンは自然状態では見らない不自然な行動であり、ダム湖の異常な水深はチョウザメの行動を変えてしまう可能性が高いということ。もうひとつは、水面にときどき顔を出す行動はチョウザメとしてごく自然な行動であり、頻繁に報告される船との衝突事故の原因となっているということ。

このように、まだ予備的な段階ではあるけれども、バイオロギングを利用して絶滅危惧種の保護に役立つ情報を提供できたことをうれしく思う。

Watanabe, Y. Y., Wei, Q., Du, H., Li, L., Miyazaki, N. (2012) Swimming behavior of Chinese sturgeon in natural habitat as compared to that in a deep reservoir: preliminary evidence for anthropogenic impacts. Environ. Biol. Fish. doi: 10.1007/s10641-012-0019-0 [published Online First]

エンペラーペンギンのタイムリミット 〜海鳥いつ戻るシリーズ その2〜

2012年1月4日 報告者 塩見こずえ(東京大学大気海洋研究所)

肺呼吸の潜水動物は、餌獲りや移動を水中で行う一方で、呼吸のためにいつかは必ず水面に戻らなければいけません。水中に長く滞在すればその潜水での獲得餌量や移動距離が増加することを期待できますが、その分潜水後の回復に時間がかかり、長い時間スケールでの効率が低下する可能性も高まります。したがって「いつ潜水をやめるべきか」という決断は潜水動物にとって単純な問題ではなく、常にジレンマを抱えているように思われます。

このような背景から、潜水時の最適な時間配分や採餌戦略について、理論モデルや実測潜水データを用いて論じた研究が数多く行われてきました。それらの先行研究においては、時間パラメータとして主に潜水時間やボトム滞在時間が使われています。行動の「結果」であるこれらのパラメータは、エネルギー収支や生理的負荷を考える上で、もちろん必須の情報です。しかしながら、特に数百mを超えるような深い潜水では、水面への浮上開始から実際に水面に到着するまでの時間差が大きくなるため、「いつ水面へ向かい始めるか」という決断をするタイミングもまた重要なのではないかと私たちは考えました。

そこで、鳥類の中でもっとも潜水能力の高いエンペラーペンギンを対象に、潜水終了決断時間に着目して潜水データを解析しました。用いたデータは、採餌トリップ中の個体10羽(グループA)、ペンギン牧場と呼ばれる半野生環境(※)に置かれた個体3羽(グループB)から取得されたものです(写真1)。

※ 定着氷上に設置した人工柵の内側に潜水穴が開けられている(写真2)。柵内に入れられたペンギンはこの穴から自由に潜水を行うことができるが、周囲に他の出口はないため、必ずこの柵内に戻ってくる。潜水生理実験を行う目的で考案された実験系。

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   写真1:ロガーを付けられたエンペラーペンギン

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   写真2:ペンギン牧場。穴の側に立っているのがエンペラーペンギン

「決断時間」を水面へ引き返し始めた時間と定義すると、グループAでは、深度によらず決断時間に上限が存在しており、5~6 minまでに水面へと戻り始めていました。しかし一方で、グループBの多くの潜水では決断時間がこの上限値を大幅に上回っていたことがわかりました(max. 11.7 min)。なぜ、このような違いが生じたのでしょうか。

肺呼吸潜水行動は最終的には生理的要因によって制限されている可能性が高いため、水中での運動コストの指標であるストローク回数を調べました。解析の結果、グループBではストローク頻度がグループAよりも小さく(0.45回/秒 versus 0.79回/秒)、決断時間の上限値におけるストローク回数はどちらのグループでも同程度であったことがわかりました。ストローク回数は、潜水中の酸素消費量と相関していることが過去の研究で明らかにされています。つまり、エンペラーペンギンの潜水においては水中での経過時間そのものではなく、筋肉の酸素消費量が水面へ戻り始めるタイムリミットに関わっていることが示唆されました。単位時間あたりのストローク回数や水中での代謝率を減少させることが潜水時間の延長に貢献するという説はこれまでにも提唱されてきましたが、エンペラーペンギンの行動から、それらが潜水終了の決断に影響を及ぼしている可能性が示されたのです。エンペラーペンギン以外の潜水動物でも水面へ戻り始めるタイミングを調べることによって、新たな潜水戦略が見えてくるかもしれません。

ちょっと言ってみたくて「海鳥いつ戻るシリーズ」と書いてしまったのですが、得られた成果はその2までしかありません。すみません。 特に意識したわけではなかったのですが、今回偶然にも空飛ぶオオミズナギドリと水に潜るエンペラーペンギンという2種の海鳥で「いつ戻り始めるか」を調べました。彼らはそれぞれに異なる外的・内的制約の下で、戻るべきか戻らざるべきかを決断しているようです。一方、どちらの種においても移動速度は狭い範囲に収まっていました。これはおそらく流体力学的な制約によるものと考えられますが、このように速度を大きく変化させること(例えば、遅れを取り戻すために急ぐ、など)は好ましくないという条件を考慮すると、移動開始のタイミングの重要性はより一層増すように思います。今後も「タイミング」という視点を意識しながら、様々な移動のメカニズムを調べてみたいと考えています。

Shiomi K., Sato K., and Ponganis P.J. (2012). Point of no return in diving emperor penguins: is the timing of the decision to return limited by the number of strokes?
Journal of Experimental Biology, 215, 135-140
Abstract『Inside JEB』の紹介記事



2011年の発見

コシャチイルカにおける吸盤タグへの反応評価

2011年10月7日 報告者 酒井麻衣(東京大学生命科学ネットワーク)

 遊泳中の鯨類へデータロガーを装着する時、吸盤タグをクロスボウやポールで装着する方法が用いられてきた。多くの場合、対象の動物は中程度または無視してよいほどの反応しかしないため、装着は成功する。しかしハンドウイルカのように、装着個体が跳躍を繰り返し、群れの他のメンバーも同様の反応をし、長期間ボートに近寄らなくなるなど、とても強い反応を示してこの方法が難しい種もある。

 コシャチイルカは、体長1.75mほどの沿岸性の小型ハクジラで、アフリカ大陸の南東部にのみ生息する。本種の生態や行動についてはわかっていないことが多い。本研究では、遊泳中のコシャチイルカへの吸盤タグの装着が有効かどうかを調べるために、タギングへの動物の反応を、目視観察とビデオ撮影により評価した。

 タギングは、ボートの船首波に乗っている(バウライド)個体を対象に、個体が呼吸のために浮上した瞬間を狙ってポールを用いて行った。タグが個体に当たった否か、タギング前後の対象個体の行動、群れの状態、バウライドする個体数を記録した。

 一度にバウライドするイルカは1頭から7頭だった。イルカたちは時折横向きに泳いで上方を確認しているようで、タギング担当者やポールが動くと、船首から3~5m離れ、呼吸をしてからまた船首に戻ってきた。ボートが、装着に失敗して浮いているタグを回収しに引き返す間、ボートの周りに残っている個体が多く、次の船首波を待っているようだった。その場合は同じ群れに対して繰り返しタギングを試みた。

 26回のタギング試行を行い、16回は個体に当たり、10回は当たらなかった。吸盤が装着された例はなかった。コシャチイルカは体が小さく動きがすばやいために、装着時に皮膚と吸盤の間の水をすべて追い出せずに吸引力を生めなかったためと考えられた。タギング前後のバウライド個体の数はほぼ同じだった。対象個体はタグが当たっても当らなくても直後に潜水したが、すぐに戻ってきてバウライドを再開した。タグを装着できなかったので推測ではあるが、当たった時と当たらなかった時で反応に違いはなかったため、対象個体は視覚的・聴覚的な刺激へ反応していて、物理的接触への反応は少ないと考えられる。反応の内訳は、「無し」が4%、「低」が92%、「中」が4%で、強い反応はなく、先行研究における他種の反応評価と比較しても、コシャチイルカのタギングへの反応は強くなかった。また、近縁種で同じようなサイズのセッパリイルカでは吸盤タグによる装着の成功例があるため、コシャチイルカは、この方法が有効な種であると考えられた。

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図1.跳躍するコシャチイルカ

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図2.すぐ近くに来るのに…タグがくっつかない。イルカたちは“度胸試し”を楽しんでいるかのようだった。

 Mai Sakai, Leszek Karczmarski, Tadamichi Morisaka, Meredith Thornton. 2011. Reactions of Heaviside’s dolphins to tagging attempts using remotely-deployed suction-cup tags. South African Journal of Wildlife Research, 41(1): 134–138.

コビレゴンドウの遊泳速度・加速度の測定

2011年8月11日 報告者 酒井麻衣(東京大学生命科学ネットワーク)

 コビレゴンドウは体長3.5~7mになるハクジラで、600mから800 m潜水し主にイカを採食することで知られる。これまでバイオロギング手法にて、鉛直移動速度の急激な上昇と鳴音の増加が深い潜水時に記録され、採餌が示唆されてきた。しかし、より詳細に本種の採餌戦略や潜水生理を知るためには、遊泳速度と加速度の同時測定が必要である。

 これまで、鯨類へのデータロガーの装着には、吸盤が主に用いられ、捕獲できないような種にはボウガンやポールなどで遊泳中の個体に装着するという方法がとられてきた。吸盤タグには1.複数の吸盤を持つタイプ(体軸と平行に装着できない可能性大)、2.吸盤1つとデータロガー本体がプラスチックチューブで連結されているタイプ(体軸加速度の測定不可)、3.吸盤1つとロガー本体が固定されているタイプがある。本研究では、遊泳速度と加速度を同時に測定できる3のタイプ(図1)を用いた。

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  図1:本研究で使用した吸盤タグ

 ハワイ島沖のコビレゴンドウのワカオス3頭に、ポールを用いて船首から吸盤でデータロガーを取り付けた。装着時、データロガーが体軸と平行にならなかったものの(図2 a, c, e)、数分後には水流に押されてロガーが体軸と平行になり(図2 b, d, f)、速度・加速度が正確に記録できることが確認できた。

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  図2:吸盤タグ装着の瞬間→数分後の様子(Tag#1: a→b; Tag#2: c→d; Tag#3: e→f)

データロガーのうち1つは少なくとも21時間は動物から脱落することはなかった(そのロガーは残念ながら回収できなかった)ため、このタイプのタグが本種に有効であることもわかった。合計で37分のデータを収集し、本種で初めて遊泳速度と加速度を同時に測定することに成功した。遊泳速度と加速度のデータから呼吸行動(図3)、ストローク&グライド泳法(図4)、連続ストローク泳法(図5)が抽出できた。このタイプのタグは、コビレゴンドウの行動の詳細や物理特性などを理解するのに役立つだろう。

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  図3:呼吸行動。黒い矢印が呼吸の瞬間を示す。

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  図4:ストローク&グライド泳法。灰色部がストロークを示す。

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  図5:連続ストローク泳法

Mai Sakai, Kagari Aoki, Katsufumi Sato, Masao Amano, Robin W. Baird, Daniel L. Webster, Gregory S. Schorr and Nobuyuki Miyazaki. 2011. Swim speed and acceleration measurements of short-finned pilot whales (Globicephala macrorhynchus) in Hawai‘i. Mammal Study. 36: 55-59.

オオミズナギドリのスケジュール管理  〜海鳥いつ戻るシリーズ その1〜

2011年12月5日 報告者 塩見こずえ (東大大気海洋研)

私が関東での暮らしにおいて何よりも辛いと感じるのは、飲み会の後、電車で帰らなければならないことです。家からどのくらい離れた場所で飲んでいるかによって終電時刻は変わるので、それを逃すことがないよう気を付けるのがめんどくさいのです(電車の揺れで酔いがひどくなるのも嫌いです)。時には飲み足りないこともありますが、終電を逃せば心身もしくは財布にダメージを受けることになるので、だいたいちゃんと帰ります。遠ければ早めに飲み会場を去るし、近ければ遅くまで粘ります。

つい前置きが長くなりましたが、今回私たちは、繁殖地から海へ餌獲りに出かける海鳥が、これと似たような行動調節を行っていることを発見しました。

対象種のオオミズナギドリは、育雛期は日中に繁殖地にいることはなく、日没後数時間以内に餌獲りから戻ってくることが昔から知られていました。私たちがGPSロガー(写真1)を用いて取得した移動経路データを見ると、採餌海域から島までの距離は97〜457 kmと様々でしたが、島に到着した時刻と距離との間に相関関係はなく、確かに日没後数時間以内に集中していました。

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  写真1:GPSロガー(Technosmart社製, イタリア, 約25g)

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  写真2:を、この背中に防水テープで装着する

一方、経路データから求めた島への接近速度が一定値以上になった時点を「帰り始め時刻」と定義すると、その時刻と距離との間に強い負の相関があることがわかりました(遠いほど早く帰り始める)。オオミズナギドリの平均移動速度は27.8km/hであったことから、島までの所要時間は移動距離が1 km増えるごとに0.036 h(=1/27.8)増加することになります。この値は、島に帰り始める時刻とそのときの島までの距離との関係を表すモデル (帰り始め時刻)=-0.036×(帰り始め距離)+0.84 の傾きにぴったり一致します。

つまり、オオミズナギドリは洋上の餌場から繁殖地がある島までの所要時間の変化に応じて、島へ帰り始める時刻を調節していたということです(下図参照)。このような行動により、島までの距離がトリップごとに大きく異なっているにも関わらず、一定の時間帯に到着することができるようです。

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  図:遠いほど早く帰る、の概念図

動物たちの生活史においては、繁殖、採餌、捕食者回避など、適切な時に適切な場所にいなければ達成できない目的が数多くあります。時々刻々と変化する欲求や目的にしたがって様々な場所を行き来する動物にとって、移動のタイミング能力は重要な意味をもつと言えるのではないでしょうか。上記のオオミズナギドリで見られたような、移動開始時刻の柔軟な調節能力は、これまで人間以外で報告されたことがありません。ある場所への到着時刻の集中は無脊椎動物から哺乳類まで様々な種で確認されているので、そういった調節は他の動物でも行われているのかもしれません。

Shiomi, K., Yoda, K., Katsumata, N., Sato, K. (2012) Temporal tuning of homeward flights in seabirds.
Animal Behaviour, 83: 355-359
Abstract『Featured Articles』での紹介記事

ペンギンの頭の加速度記録から捕食の瞬間を捉える

2011年11月25日 報告者 國分亙彦 (国立極地研究所・オーストラリア南極局)

 高次捕食者の捕食行動がいつどこで、どのくらい頻繁に起こっているか、詳しく知ることは、かれらの捕食にとってどのような環境が鍵となっているかを理解するうえで重要である。しかし、野生の高次捕食者の捕食の瞬間を、長時間、連続的に記録することは、これまで難しかった。そこで私たちは、「野生のペンギンが水中で餌をついばむときには、強く頭が振れるだろう」との予測のもと、近年開発された小型加速度記録計をペンギンの頭に取り付けることで、かれらの捕食の瞬間を捉えようと考えた。捕食者のアゴや頭の急加速の記録を、捕食の指標として用いようという同様の試みは、すでに飼育下のアザラシ(Suzuki et al. 2009)や野生のオットセイ(Iwata et al. 2011)等、大型の海棲哺乳類で、成功をおさめている。今回私たちは、頭の3軸の加速度に加え、捕食を裏付ける資料として、カメラロガーを同じ個体に取り付け、餌と出会っているか否かを同時に調べた。また、他の個体では、頭と背中の加速度を2つの加速度計で同時に記録し、頭の動きと体軸の動きを比べた(図 1)。

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図 1. 頭と背中に加速度記録計を取り付けたヒゲペンギン

 南極半島域に生息する、ヒナをガード中のヒゲペンギンジェンツーペンギンを対象に、調査を行った。ヒゲペンギン2採餌トリップ、ジェンツーペンギン5採餌トリップ分の、頭の加速度と水中写真の同時記録、そして、ヒゲペンギン7採餌トリップ、ジェンツーペンギン7採餌トリップ分の、頭と背中の加速度の同時記録を得た。 ここで、ちょっと取り付けの場面を想像してみて、「ペンギンの頭に加速度記録計を取り付けるのは、ペンギンが嫌がりそうだし、なかなか難しそうだな」と思われる方がいるかもしれない。しかし日本で普通に市販されている軍手の甲の一部を四角く切り取ったうえですっぽりとペンギンの頭にかぶせ(クチバシは中指の部分に収まる)、甲の穴の部分を利用して、細かく切ったテープで加速度計を固定すると、ペンギンは特にあばれたり苦しがったりする様子もなく、機器の安定性もよく、取り付けは無事成功した。

 さてデータを解析すると、予想通り、ペンギンは潜水中、時折、頭を上下前後左右に激しく動かしていた(図 2: 解析手法はSakamoto et al. 2009によった)。それはときに約3秒周期の体軸の揺れ(深度記録で見られる、「ジグザグ」に相当)と共に起こっていた。

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図 2. 上から、ジェンツーペンギンの2潜水分の、深度、3軸の頭の加速度、3軸の頭の加速度の周波数成分と強度、体軸の加速度の周波数成分と強度の時系列。2回目の潜水(右側)の潜水ボトム中に、頭を上下前後左右に激しく動かしている。

 また、カメラロガーには、ペンギンが時折ナンキョクオキアミの群れに突っ込んで捕食している様子が写っていた(図 3)

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図 3. カメラロガーに写ったナンキョクオキアミの画像。加速度記録計を取り付けたペンギンの頭が写っている。

 そこで、1潜水中の頭の振れの回数(3軸)と、餌の写った頻度の関係を調べてみると、前後方向の頭の振れの回数と、餌の写った頻度で相関がもっとも高かった。また、餌の写ったタイミングと、前後方向の頭の振れのタイミングを比べると、平均89.1%の確率で、餌の写った前後2.5秒以内に、頭の振れが起こっていた。カメラの画像は時として暗く、餌の有無を判別不可能なことがあった(平均23.1%の潜水)。これらのことは、前後方向の頭の振れは、ペンギンの捕食の瞬間の指標として、長期間、連続的に使えることを示している。

 さてペンギンのトリップ中に、捕食はどのような形で起こっていたのだろう。図4に、ペンギンの頭の加速度から得た捕食行動の時間変化の例を示す。

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図 4. 上から、1採餌トリップ中の、潜水深度、頭の加速度から得た捕食頻度、深度のジグザグ回数の頻度の時間変化。ヒゲペンギンの例。

 ペンギンの捕食行動は、採餌トリップ中に、時間的に狭い範囲で集中的に、何回かに分かれて起こっている様子がわかる。このことは、パッチ状に分布するオキアミを、ペンギンが移動しながら捕食していることを示しているのだろう。今回の手法を、GPSロガーなどと組み合わせて利用すれば、餌との遭遇パターンを、3次元的に描くことも可能となるだろう。また、この方法は、陸上の生態系も含め、捕食に頭の動きをともなう高次捕食者の捕食パターンを記録するのに、有用だろう。

 最後に、南極でのフィールドワークに先立ち、加速度計をペンギンの頭に取り付ける方法を、名古屋港水族館のご厚意により、飼育下のジェンツーペンギンで実験させていただきました。同館の内田至館長、栗田正徳氏をはじめ、職員の方々には、多大なご協力をいただきました。この場を借りて厚く感謝いたします。

Kokubun N, Kim J-H, Shin H-C, Naito Y and Takahashi A (2011) Penguin head movement detected using small accelerometers: a proxy of prey encounter rate. J. Exp. Biol. 214: 3760-3767

揚子江におけるスナメリの分布変化

2011年11月16日 報告者 木村里子(京都大学)

 対象とする動物が、いつ、どこにいるかを知ることは、生態学における基礎的な問題であり、特に保全管理の上で非常に重要である。中国揚子江には、ヨウスコウスナメリNeophocaena asiaeorientalis asiaeorientalisと呼ばれる、スナメリの淡水性亜種が生息する。近年個体数が激減しており、早急な保全管理が不可欠である。しかし、野生下における本種の基礎的な生態情報が不足していた。

 本研究では、揚子江中流域とポーヤン湖の接続域(77km)(図1)に生息する個体群を対象とし、地域的な分布変化を明らかにすることを目的とした(論文1)。

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図1.対象水域の地図。(B)のように、水域の特徴ごとに5-7kmの区分に区切ってスナメリ検出数を比較した。Jは接続域、Mは揚子江本流、Sは揚子江支流、Bは橋梁がある水域、Dは掘削が実施されている水域である。

音響データロガー(ML200-AS2、マリンマイクロテクノロジー社製)を用いて、2007年5月〜2010年8月に、曳航音響調査を11回実施した。スナメリの片側検出距離は約300mと推定された。また、分布に影響を与えうる要因として、船舶航行、底砂採取、橋梁、餌生物(魚類)の分布の4点を検討した。餌生物(魚類)の分布は、魚群探知機(HE-6100, HONDEX) を用いて水域毎の魚類検出の有無を調べた。

 各調査ラインの観測範囲における単位距離毎の平均検出数は、0.53〜1.26頭/kmであり、経年的な個体数密度の増加、減少傾向は確認されなかった。スナメリの分布は季節的に変化し、5, 8月には揚子江本流の接続域で、11, 2月にはポーヤン湖内で検出が多くなることがわかった(図2)。

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図2.各水域におけるスナメリの平均検出数

魚類が検出された水域におけるスナメリの検出割合は、非検出水域より有意に高かった。しかし、船舶航路や橋梁付近でスナメリ密度が低下したり、底砂採取禁止期間に密度が増加したりする傾向は見られなかった。本種の保全を考える上で、餌生物(魚類)資源の管理がより重要である可能性が示唆された。

 現在、本手法をより広域に拡大し、武漢から上海までの1100kmにおいて調査を実施している(論文2)。2006年11月、2008年3、12月、2009年6月の結果から、群れサイズが大きく変化しないこと、および季節的な分布変化が示唆されている。今後、調査を継続し、広域的な分布変化をより詳細に明らかにする予定である。

1.Kimura, S., Akamatsu, T., Li, S., Dong, L., Wang, K., Wang, D., and Arai, N. (2011), Seasonal changes in the local distribution of Yangtze finless porpoises related to fish presence, Mar. Mamm. Sci. in press (published online).

2.Dong, L., Wang, D., Wang, K., Li, S., Dong, S., Zhao, Z., Akamatsu, T., Kimura, S. (2011), Passive acoustic survey of Yangtze finless porpoises using a cargo ship as a moving platform, J. Acoust. Soc. Am. 130, 2285-2292.

鳥類の最長潜水記録更新!

2011年8月15日 佐藤克文(東京大学大気海洋研究所)

 肺呼吸動物が水中に潜る場合、潜水直前に体内に蓄えた酸素を使うことになる。酸素が足りなくなると、嫌気呼吸による無酸素運動も行うが、嫌気呼吸では、単位重量のグルコースからATPを生産する効率が有酸素呼吸に比べて悪い。また、嫌気呼吸によって生じた乳酸を分解するために、潜水後に長時間水面に滞在して休息しなければならない。それらの理由から、連続して潜水する動物は、有酸素呼吸でほとんどの代謝をまかなっていると予想されている。潜水能力に長けたペンギン類の中で、最大種であるエンペラーペンギンを半閉鎖実験系で潜らせて測定した過去の実験により、潜水時間が5.6分間を越えると血液中の乳酸濃度が急上昇することが判明している(Aerobic Dive Limit: ADL, Ponganis et al. 1997)。しかしながら、野外環境下で潜水を繰り返すエンペラーペンギンの潜水行動記録によると、ペンギンはしばしば5.6分間を越える潜水を行っていた(Kooyman and Kooyman 1995)。エンペラーペンギンが野外環境下で潜水を行っているときのADLは5.6分よりも長いのだろうか?そもそもエンペラーペンギンはいったいどれくらい長く潜っていられるのだろうか?

 自然環境下で餌採り潜水を繰り返し行っているエンペラーペンギンの行動を調べるために、深度・速度・加速度を記録できる動物搭載型記録計を2005年11月に南極ワシントン岬周辺で育雛中の親鳥に取り付けて、8日から20日間に及ぶ採餌旅行中の行動記録を得た。さらに、比較対象として野外実験の前年2004年にアメリカ南極マクマード基地周辺海域で、海氷に人工的に穴を開け、穴の周りを柵で囲ってその中にエンペラーペンギンを放し、半閉鎖実験系における行動記録も得た。潜水時間とその後の水面休息時間の関係を調べたところ、野外環境下でも半閉鎖実験系でも、ペンギンは5.6分を越える潜水を行っており、その割合は前者では全潜水の10.1% 、後者で12.6%であった。意外なことに、長時間潜水の後でも水面滞在時間が特に長くなるわけではなかった(図1)。10分間におよぶ潜水を行った後でも、わずか1分程度の水面滞在時間を挟んで次の潜水を行っていた。これらの結果より、エンペラーペンギンはADLを超える長時間潜水をした直後に必ずしも長時間の水面休息を必要としていないという事がわかった。

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図1 潜水時間と潜水後水面滞在期間の関係。2分以下ないし50m以浅の潜水は水面滞在期間に含めている。

 

 半閉鎖実験系のペンギン(N=3)は深度100m以下の浅い潜水しか行わなかったが、野外環境下で採餌旅行を行ったペンギン(N=10)は、最大深度357.5mから513.5mの深い潜水から、ごく浅い潜水まで様々な深度の潜水を繰り返し行っていた。野外環境下のペンギンでは、浮上途中でフリッパーの動きが停止し、グライディングで水面にまで到達する行動が見られた。この行動は、過去にキングペンギンアデリーペンギンにおいても記録されており、浮力を計算するモデルによって、体内保有空気量が見積もられている(Sato et al. 2002)。同じ手法を用いて、エンペラーペンギンにおいても体内保有空気量を見積もったところ、潜水深度250mまでは保有空気量も増加した。しかし、潜水深度が500m近くまで増えると、今度は保有空気量は減少した(図2)。この結果の解釈はなかなか難しい。キングペンギンアデリーペンギンでは、深い潜水ほど保有空気量は増えていた。エンペラーペンギンで500m近い潜水の保有空気量が減るという結果は、エンペラーペンギンが深い潜水では吸い込む空気量を低く抑えたという事を意味するのだろうか?

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図2 潜水深度と単位体重あたり推定空気量の関係。図中のA~Dは図3の潜水事例に対応している。

 

 図2において、浅くて保有空気量が少なかった潜水(A)、浅くて空気量が多かった潜水(B)、深くて空気量が多かった潜水(C)、深くて空気量が少なかった潜水(D)の4つを抜き出して、潜水開始時のフリッパーを動かす様子を比較してみた(図3)。その結果、推定空気量が多かった潜水BとCではストローク頻度が高くなった。これは、空気量が多いことに起因する浮力に逆らって泳いでいたことを示唆している。推定空気量が少なかった浅い潜水Aでは、潜水開始時のストローク頻度も低くなった。これは、空気量が少ないために浮力も小さく、潜降に必要なストローク頻度が低かったと解釈できる。推定空気量が少なく深い潜水Dでは、予想に反して潜降時のストローク頻度は高いという結果になった。これは、潜水開始時には確かに多くの空気を体内に保有していたにもかかわらず、浮上を開始するまでのどこかで空気を吐き出してしまったという事を示唆している。よって、エンペラーペンギンもまた、深い潜水を行う際にはキングペンギンアデリーペンギンと同様に、沢山空気を吸い込んでから潜水を開始していたものと考えられた。

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図3 図2に示された潜水4例の潜水開始直後10秒間の加速度時系列データ。

 

 エンペラーペンギンは吸い込む空気量を増やすことにより、体内に蓄える全酸素量(肺、血液、筋肉)を58ml kg-1から68ml kg-1まで増やす事が出来る。半閉鎖実験系のペンギンは浅い潜水しか行わないので、5.6分というADLはおそらく空気量が少ない潜水時の値であろう。しかし、吸い込む空気量を増やしたところで、酸素量は18%しか増加しないので、ADLの伸びもさほど期待出来ない。にもかかわらずエンペラーペンギンが5.6分を大きく越える潜水を行った後に長時間の水面休息を行わなかったという事は、まだ我々が把握していない生理機能があるという事を示唆している。  今回得られた結果の中で最も大きな驚きは、それまで23分とされていた本種の最大潜水時間記録が27分36秒に更新されたことである。さすがにこの長時間潜水を行った直後のペンギンは、腹ばいの状態で5.9分間深呼吸を行い、その後立った状態で20分間休息してから歩き始めていた(図4)。次の潜水が始まったのは8.4時間後であったことなどから考えても、この超長時間潜水によって体内に蓄積した乳酸が解消されるには長時間の休息が必要だったのだろう。

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図4 エンペラーペンギンの再長潜水記録時系列図(A)およびその後の挙動(B)。

 

Sato, K., Shiomi, K., Marshall, G., Kooyman, G. L. and Ponganis, P. J. (2011) Stroke rates and diving air volumes of emperor penguins: implications for dive performance. Journal of Experimental Biology 214: 2854-2863. この論文は2011年9月のEditors’ choiceに選ばれたため、9月7日まで無料でPDFファイルをダウンロードできます。今すぐ以下のサイトへGO! http://jeb.biologists.org/

世界初! 鳥の飛行速度を測定

2011年7月7日 報告者 渡辺佑基(国立極地研究所)

鳥はどのくらいの速さで飛ぶのか。地面に対する速度(対地速度)なら、レーダーによる遠隔測定や小型GPSを鳥に装着する方法等によって数多く研究されてきた。しかし、より重要なのは、実際に鳥が体験する、空気に対する速度(対気速度)であり、このパラメータは今まで測定する技術がなかった。

本研究では、小型プロペラ付きの記録計を野生の鵜に取り付けることにより、鳥の飛行中の対気速度を世界で初めて測定した。

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図1 ケルゲレンヒメウという鵜の一種。亜南極ケルゲレン島(仏)にて。

 

鵜の平均飛行速度は12.7m/秒であり、これは本種の形態(体重、翼長、翼面積等)から予想される、必要パワーを最小限に抑える速度と一致した(図2)。また、同時に記録した行動パラメータによると、飛行時間は平均92秒と短く、長距離を飛ぶ場合はときどき水面に降りて休んでいた。

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図2 二つの流体力学モデル(Pennycuick 2008; Norberg 1990)を用いて計算した、対気飛行速度と必要パワーの関係を太線と点線でそれぞれ示す。△は必要パワーを最小限に抑える速度(min. power speed)、☆は燃費を最大にする速度(max. range speed)。棒グラフは実際に測定された飛行速度の頻度分布。鵜はmax. range speedではなくmin. power speedを選択していることがわかる。

 

鵜は高い潜水能力を持ち、それに適した形態(重い体重、発達した足の筋肉、短い翼等)をしている。その代償として飛行能力は乏しく、生理的な限界に近い運動強度で飛行していることが示唆された。

と、表向きの要旨は以上のようになるが、以下に裏事情を告白したい。

実は、飛行速度が測れたのは全くの偶然であり、予想もしなかった結果である。使用したプロペラロガーは飛行速度の記録用に作られた特別のものではなく、ペンギンやアザラシなどの遊泳速度を記録するためのごく普通のものである。プロペラは水中で回転するよう設計されているため、空中ではうまく回らないのが普通である。

しかし、フィールド調査の最中にこんなことがあった。

鵜に取り付けたプロペラロガーを回収し、データを見てみると、遊泳速度のデータがおかしい。鵜が海中を泳いでいるとき、普通なら水流を受けて毎秒60〜70回の速さで回転するはずのプロペラが、ほとんど回っていなかった。だがその代わり、データをよく見ると、空を飛んでいるときにプロペラが毎秒100回以上の速さで高速回転していた。

いったい何が起こったのか。回収したロガー本体を調べると、プロペラを止めるナットが緩み、回転しやすくなっていた。鵜は巣にいるとき、背中のロガーを気にしてクチバシでよくつつくので、たまたまうまい具合にヒットしてナットが緩んだに違いない。

ナットを緩めれば飛行速度が測れるようになる――これは胸ときめく大発見だった。鳥の対気飛行速度を測った例など、今までに一度もないのだから。そしてなお愉快なことに、その画期的な方法を教えてくれたのは鳥自身である。それ以降、ナットをわざと緩めてからロガーを取り付けるようにして、飛行速度のデータを繰り返しとった(図3)。

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図3 プロペラロガーを普通に取り付けた場合(A)とナットを緩めた場合(B)の記録例。普通に取り付けた場合は、鵜が海中を泳いでいるときはプロペラがよく回るが、空を飛んでいるときは回らない。ナットを緩めると逆のことが起こる。

 

最後に必要なのは、プロペラ回転数を実際の飛行速度に変換するためのキャリブレーション実験である。フィールド調査が終わった後、工学院大学の伊藤慎一郎先生および明星大学の緒方正幸先生にお願いし、風洞と呼ばれる、風速を自由にコントロールできる流体力学用の実験施設を使わせていただいた。大きなファンの前にプロペラロガーをセットし、次第に風速を上げていくと、予想通り、そして期待通りに、プロペラ回転数もきれいに上昇した。

このような経緯を経て、鳥の飛行速度は初めて測定された。

Watanabe YY, Takahashi A, Sato K, Viviant M, Bost C-A (2011) Poor flight performance in deep-diving cormorants. J. Exp. Biol. 214: 412-421

オオミズナギドリの採餌域と海洋環境の季節変化

2011年6月24日 報告者 山本誉士(総合研究大学院大学)

海洋環境の季節変化は海洋生物の分布に影響する。そのため、それらを捕食する海鳥類などの海洋高次捕食者も、海洋環境に対して採餌域を季節的に変化させることが予想される。そこで、本研究では動物装着型記録計(ジオロケータ)を日本周辺海域で繁殖する飛翔性海鳥のオオミズナギドリに装着し、彼らの採餌域が海洋環境の季節変化に対してどのように変化するのかを調べた。ジオロケータは時間、照度、着水時間、水温を約1年間記録することができ、記録された照度データを用いて大まかな位置を推定することができる(位置の推定誤差は約100km)*。調査は黒潮・親潮混合域の北と南にそれぞれ位置する岩手県三貫島と伊豆諸島御蔵島で実施した。混合域では冷たい親潮と暖かい黒潮の流入量の変化などにより、春から夏にかけて表層水温が劇的に変化することが知られている(水温差は約14℃)。2006年9月〜10月に三貫島で繁殖するオオミズナギドリ48羽と御蔵島で繁殖するオオミズナギドリ16羽にジオロケータ(GLS-Mk4, 25×18×7 mm, 4.5g, British Antarctic Survey)を装着した。そして、翌年の2007年8月〜9月に三貫島で38羽、御蔵島で10羽を再捕獲し、ジオロケータを回収した。

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オオミズナギドリの足に装着したジオロケータ

ジオロケータにより得られた位置情報(2007年4月〜7月)から、三貫島と御蔵島で繁殖するオオミズナギドリは共に4月〜7月にかけて採餌域を徐々に北上させていたことが明らかになった。この様なオオミズナギドリの採餌域の変化は、彼らが餌とする暖海性浮魚類の季節的な移動パターンと類似していた。北西太平洋では、暖水と冷水が混合する親潮前線付近で春に一次生産が高くなる。そのため、親潮前線付近は多くの海洋生物にとって重要な餌場や産卵場となる。しかし、カタクチイワシやサンマなどの浮魚類の分布は水温に強く依存するため、彼らは春から夏にかけて海水温の上昇に合わせて分布を黒潮域から親潮域まで北上させる。

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2007年4月〜7月のオオミズナギドリの採餌域のカーネル密度分布(左)三貫島、(右)御蔵島。背景の線は海面水温の月平均を表し、黒太線は黒潮流軸(水深200mで14℃)、また破線は親潮流軸(水深100mで5℃)の位置を示す。

オオミズナギドリは海洋環境の季節変化に対して採餌域を変化させていたが、そのパターンは雌雄間で異なっていた。オオミズナギドリのメスは春から夏にかけて一定の採餌域の変化を示したが、オスは4月〜6月には主に繁殖地周辺海域で採餌していた。この様な雌雄間の採餌域の違いは、彼らの繁殖における役割の違いに起因していると予想される。今回データ解析をおこなった4月〜6月はオオミズナギドリの抱卵前、そして7月は抱卵期にあたる。抱卵前は繁殖において重要な時期であり、巣穴やつがい相手を守る必要がある。そのため、4月〜6月にはオスは頻繁に繁殖地に帰巣していた(平均採餌トリップ長1.5-2.4日)。一方で、メスは数日の採餌トリップを繰り返しおこなうというパターンを示した(平均採餌トリップ長3.3-8.2日)。その結果、オスは海上での時間が限られており、海洋環境の季節変化に関わらず繁殖地周辺の海域で採餌していたと考えられる。この点において、7月の抱卵期には採餌域や帰巣頻度、また採餌トリップ長に雌雄差はみられなくなった。

本研究の結果から、海洋高次捕食者である海鳥は海洋環境の季節変化に伴う餌資源の分布やバイオマスの変化に対応して、採餌域を変化させることが明らかになった。近年、北西太平洋でも気候変動が海洋環境や海洋生態系に及ぼす影響が懸念されているが、その影響は同種でも繁殖地の位置や性別により異なる可能性が示唆される。

※本研究では水温データを用いて位置を補正したため、位置の推定誤差はより小さい(詳しくは論文を参照)

Yamamoto T, Takahashi A, Oka N, Iida T, Katsumata N, Sato K, Trathan PN (2011) Foraging areas of streaked shearwaters in relation to seasonal changes in the marine environment of the Northwestern Pacific: inter-colony and sex-related differences. Marine Ecology Progress Series 424: 191-204.

2010年の発見

音の数からイルカの密度を推定する

2010年12月30日 報告者 木村里子(京都大学大学院情報学研究科)

密度推定は動物の資源管理の基本である。本研究では、受動的音響観察手法を用いて、イルカが発する音(クリックトレイン)の数から密度を推定するモデルを考案し、現場水域で密度推定を行った。

背景雑音から一定の正検出率C・誤検出率Fで対象音を抽出する検出フィルターを作成し、バイオロギング手法で発声頻度Rを、音響伝播モデルから検出確率Pと検出可能面積πw2を推定する。さらに発声頻度に対する群れサイズの影響αを考慮してやれば、検出された対象音の数Nctは密度Dに変換できる。

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揚子江に生息するスナメリをターゲットとし、揚子江中流のポーヤン湖接続域において2007年6月から2009年5月までの466日間受動的音響観察を行った。その結果日によって平均密度が0から4.79km2まで変化することがわかった(図1)。観察を実施した94%の日は密度が1頭/ km2以下で、観察水域では6月前後に密度が高くなることがわかった。

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図1.推定された個体数密度。マイナス値は非観察期間を示す。

Satoko Kimura, Tomonari Akamatsu, Songhai Li, Souyue Dong, Lijiun Dong, Kexiong Wang, Ding Wang, Nobuaki Arai. Density estimation of Yangtze finless porpoises using passive acoustic sensors and automated click train detection, J. Acoust. Soc. Am. 128, 1435-1445. 2010

大型台風が魚の分布に及ぼす影響

2010年12月21日 報告者 河端雄毅(京都大学大学院情報学研究科)

台風は人間や陸上動物の生活・生残を脅かしてきた。また、近年地球規模の気候変動により、大型台風の発生頻度が増加しているというデータが提示されている。

外洋の魚ならともかく沿岸の魚にも台風は脅威となり得るようだ。例えば、大型台風の後には、浜に魚が打ち上げられたり、藻場・サンゴなどのハビタットが消失したりする。

我々が2年間シロクラベラの超音波テレメトリー調査をしている際に、狙い通り(運良く)大型台風が通過した。そこで本研究では、そのデータを解析した。

まず、あるイベントが起こる確率を目的変数として、時系列と非時系列説明変数との相関を調べることが可能な、Cox比例ハザードモデルを用いて解析を行った。

ここでは、調査海域から出ていくことを「分布変化」として目的変数にした。また、魚の全長、放流の年、1週間前までの最大風速、を説明変数にした。続いて、AICcを用いて、最適モデルを選択した。その結果、1週間前までの最大風速がシロクラベラの分布変化に影響を及ぼすことが示唆された。

また、台風通過時の移動データと物理環境データを時系列にプロットした。その結果、風速と移動に関係性が見られた個体が居た一方(図1)、物理環境データとの関係は無く台風通過後3日間をかけて徐々に調査海域外へ移動した個体が居た(図2)。このことは、風速に伴う強い流れなどの直接的な影響とハビタットの改変等の間接的な影響の両方の要因で、シロクラベラの分布が変化したことを示唆する。

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図1.風速と移動に関係が見られた個体の移動パターン。風速が約20m/sになった時に北への移動を開始し、一旦調査海域から居なくなった。その後、台風の目が過ぎて再度風速が上がった際に再度調査海域に現れ、今度は北から南に移動し、調査海域から居なくなった。

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図2. 台風通過後、3日間かけて徐々に調査海域外へと移動した個体の受信率。1日の受信率は1日の内どれだけの時間調査海域内に居たかの指標となる。台風通過前までは1日の内ほぼすべての時間を調査海域内で過ごしていたが、台風通過後に徐々に調査海域外で過ごす時間が増え、4日後に完全に調査海域外に生活圏を移したことが分かる。

時折の台風による撹乱であれば、種の多様性の維持に貢献しそうであるが、近年の頻繁な大型の台風の襲来はサンゴ礁魚類などの沿岸魚類の種構成や分布域を変化させるかもしれない。 今後、異なるタイプの魚類をモニタリングし大型台風の影響を調べることで、台風の発生頻度が増加すると、どの種にとって有利に働き、どの種にとって不利に働くかなどが分かるかもしれない。

Kawabata Y, Okuyama J, Asami K, Okuzawa K, Yoseda K, Arai N. Effects of a tropical cyclone on the distribution of hatchery-reared black-spot tuskfish Choerodon schoenleinii, determined by acoustic telemetry. Journal of Fish Biology. 2010. 77, 627–642

遊泳速度はどう決まる?

2010年11月3日 報告者 渡辺佑基(国立極地研究所)

海生哺乳類、海鳥、ウミガメなどの潜水動物は、どのくらいの速さで泳ぐのか。そして、その速度は、どのような要因で決まるのか。500グラムのウミガラスから、100トンのシロナガスクジラまで、潜水動物の遊泳速度データを集められるだけ集め、バイオメカニクス、系統関係、潜水生理などの情報を軸に解釈を試みた。すべてスッキリと説明できた、というわけでは全然ないが、多種多様な動物の行動に伏流するプリンシプルをいくつかあぶりだせたと思う。

まず、サイズの影響。過去の研究(Sato et al. 2007 Proc. R. Soc.)では、小さなペンギンも、大きなクジラも、同じくらいの速度で泳ぐことが報告されている。ただし、これは必ずしもサイズとの無相関を意味しない。ペンギンとクジラはそもそも全然違う動物であり、単純に比較できないからである。

そこで、本研究では、系統関係の情報を織り込む特殊な統計手法を用いた。「系統的に遠い種類(たとえばシロナガスクジラとジェンツーペンギン)は、速度も違って当たり前」「系統的に近い種類(たとえばキタゾウアザラシとミナミゾウアザラシ)は、速度も近くて当たり前」という、直観的にも筋の通った効果を、定量的に盛り込むことができた。

その結果、大きな動物ほど速く泳ぐことがわかった(図1A)。大きな潜水動物ほど、限られた潜水時間内に、水平的にも鉛直的にもより広い範囲に渡って餌を探索できる、ということであり、今までに知られていなかったサイズの利点である。

次に、グループ間比較。同サイズで比較した場合、ウミガメは、海生哺乳類や海鳥に比べて遅いことがわかった。ウミガメは代謝速度の遅い変温動物であり、海生哺乳類や海鳥は代謝速度の速い変温動物である。ということは、潜水動物の遊泳速度は、代謝速度に制限されているのかもしれない。実際、遊泳速度を基礎代謝速度でプロットしてみると、体重でプロットしたときと比べ、回帰式のフィットが向上した(図1B)。

最後に、レイノルズ数の影響。レイノルズ数は、遊泳速度のサイズ効果を考えるとき、最も重要な物理パラメータの一つである。すべての潜水動物について計算してみると、3×10^5を下回ることはないことがわかった(図2)。レイノルズ数が3×10^5を下回ると、流れのパターンが変化し、抵抗が急激に増すことが知られているので、これは理にかなっている。ペンギンもクジラもウミガメも、レイノルズ数を高く保つことにより、抵抗を低く抑えていることが示唆された。

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図1 遊泳速度の種間比較。横軸は(A)体重あるいは(B)基礎代謝速度

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図2 (上)流線形の物体におけるレイノルズ数と抗力係数の関係。(下)潜水動物のレイノルズ数。

Watanabe YY, Sato K, Watanuki Y, Takahashi A, Mitani Y, Amano M, Aoki K, Narazaki T, Iwata T, Minamikawa S, Miyazaki N (2010) Scaling of swim speed in breath-hold divers. J. Anim. Ecol.

アカウミガメの子ガメは初期孵化後18日目に孵化脱出する

2010年10月3日 報告者 森谷淵(日在-和泉浦の海を育みウミガメを守る会)

 2010年9月22日、いすみ市日在浦海岸の3回目産卵巣(7月19日)から、初期孵化脱出(9月4日、48日目)から18日目経って、子ガメ1匹が自力で孵化脱出していたことが、筆者によって確認されました。図1に示すように、一日も欠かさず行っている毎日の早朝パトロールにおいて、歩幅約70mmの鮮明な子ガメの足跡が約40mにわたり、満潮時の渚線付近まで残されているのを発見したものです。産卵巣保護柵周辺の砂は、乾いている上にとても柔らかく、人の足跡が7〜8cm深さでつき、園芸用移植べらで30cm位の深さまで砂を容易に掘ることができました。

 Hays(1992)や鮫島(1994)らは、子ガメの遅延脱出(Asynchronous Emergence)を10数日間にわたり足跡等で観察したことを報告していますが、子ガメ初期脱出(Initial Emergence)後のもっとも遅い遅延脱出の記録としては、国内では鹿児島県長崎鼻(鮫島, 1994)、海外ではギリシャのKyparissia Bay (Adam et al., 2007) において、共に13日目脱出が報告されております。また子ガメの自己脱出ではありませんが、筆者は、2008年の孵化調査において、初期孵化後14日目に砂中から子ガメを取り出し渚で離したところ、元気に泳いで旅立っていったことがあります(森谷、手持ちデータ)。いずれにせよ、自然巣の環境で胚体が生育するためには、ガス交換、湿度、温度の3要素がすべて許容範囲内にあることが不可欠であり(Miller, 1997)、全てを満たした個体だけが子ガメとして地上に脱出してくることができるのです。

 今回の報告は、従来の観察記録を上回るものであり、世界でもっとも遅いアカウミガメの子ガメの孵化・自己脱出だったと思われます。

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図1 初期孵化脱出から18日後にアカウミガメの子ガメ1匹が自力で孵化脱出した足跡

 子ガメ遅延脱出の振舞を調べるために、アカウミガメが産卵するいすみ市海岸で、標準測定地点(RML、深さ45cm)の砂中温度を、サーミスタ・センサー(分解能0.1℃)を用いて2008、2009、2010各年に実測した結果(森谷、手持ちデータ)を、各年のもっとも遅い遅延脱出産卵巣について比較したのが図2です。

 2008年は、産卵巣10ヶの全てが孵化したことからも分かるように、日射量が十分で台風被害のない年でありました。6/22産卵巣は60日目に初期孵化脱出しましたが、9月4日の孵化調査日に筆者の指導により、子ガメ1匹を産卵巣中から取り出して帰海させたものです(遅延帰海14日後)。 2009年は、日射不足と台風被害等のため、産卵巣14ヶのうち正式な孵化調査が行えたのは5巣に止まりました。7/6産卵巣は67日目に初期孵化脱出し、9月16日に最後の子ガメが自力で遅延孵化脱出しました(遅延孵化脱出5日目)。

 2010年は、全国的に記録的な猛暑の夏で、7月〜9月中旬まで砂中温度が高いまま推移しました。10回あった産卵の半数が8月以降に行われ、産卵時期が例年に比べ3〜4週間遅れました。産卵時期が遅れた原因は定かではありませんが、浅い磯根が続く当地アカウミガメ生息域の海中水温が、例年より低かったことが考えられます。7/19産卵巣は48日目に初期孵化脱出があり、最後の子ガメは9月22日に遅延孵化脱出しました(遅延孵化脱出18日目)。この間砂中温度は29℃以上を維持し、翌日の9月23日から約1週間は降雨が続き、砂中温度も一気に7〜8℃低下したことからも分かるように、この子ガメは絶妙のタイミングで孵化脱出し太平洋へ旅立てた、幸運な子であったことが分かります。

[[図2_2008、2009、2010各年のもっとも遅い遅延脱出産卵巣の砂中温度の推移: http://www.ne.jp/asahi/inlet/jomonjin/moriya2008_2010temp1.jpg]]

Adam, V., C. Tur, A. F. Rees and J. Tomas. 2007. Emergence pattern of loggerhead turtle (Caretta caretta) hatchlings from Kyparissia Bay, Greece. Mar. Biol. 151(5):1743-1749.

Hays, G. C. , J. R. Speakman and J. P. Hays. 1992. The pattern of emergence by loggerhead turtle (Careeta caretta) hatchlings. Naturwissenschaften. 88:133-136.

Miller, J. D. Reproduction in Sea Turtles. 1997. In Ltuz P. L. and J. A. Msuick (eds) The Biology of Sea Turtles: 51-81. CRC Press. London, NY, Wash. D.C.

鮫島正道 1994 薩摩半島最南端長崎鼻のアカクミガメ. 所収:日本のウミガメ産卵地. pp.37-41. 日本ウミガメ協議会

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2009年の発見

ジュゴンの音響検出率

2010年4月21日 報告者 市川光太郎(京都大学大学院情報学研究科)

 2008年1月にタイ国トラン県タリボン島およびムク島周辺海域において、ジュゴンの音響検出率と目視検出率の評価を行った。曳航式のステレオハイドロホンによって水中音を録音し、ジュゴンのチャープ鳴音とトリル鳴音を記録した。同時に、それぞれ標準的な目視観察を行い、ジュゴンの発見位置・頭数を記録した。ジュゴンの音響検出率と目視検出率はそれぞれ15.1% と15.7%であった。野生のジュゴン鳴音を調査船上からプレイバックしながら同様の観察を行った場合、音響検出率と目視観察率は19.2%および12.5%となった。ジュゴンの音響検出位置は局所的に集中分布しており(Iδ = 3.52, P < 0.01)、目視検出位置はほぼランダムな分布を示した(Iδ = 0.97, P > 0.05)。音響観察によって目視観察と同程度の検出確率が期待できることが分かった。ジュゴン鳴音のプレイバックを行えば、音響検出率は向上する。しかし、ジュゴンが発声を行うのは局所海域に限定される可能性があるため、音響観察を行う場合は十分な注意が必要である(Fig. 1)。

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Fig. 1. 音響検出と目視検出の位置の分布。●と○はそれぞれプレイバックありの音響検出とプレイバックなしの音響検出の位置である。▲と△も同様にそれぞれプレイバックありの目視検出とプレイバックなしの目視検出の位置である。ムク島東部周辺とタリボン島南部周辺に音響検出が集中した(P < 0.01)。目視検出は集中分布は示さず、ほぼランダムな分布を示した。

Ichikawa, K., Akamatsu, T., Shinke, T., Sasamori, K., Miyauchi, Y., Abe, Y., Adulyanukosol, K., and Arai, N. Detection probability of vocalizing dugongs during playback of conspecific calls. J. Acoust. Soc. Am. 126 (4), 1954-1959, 2009.

ヒラメは産卵期になると良く泳ぐ

2010年4月5日 報告者 安田十也(近畿大学大学院農学研究科)

  ヒラメは形体が特徴的で普段は海底でじっと身を潜めて獲物を待つ。しかし、データロガーを使って行動を記録したところ産卵期は活発に泳ぎかつ居場所も変えていた。世界初の海上空港である長崎空港(だそうです)がある大村湾は日本有数の強閉鎖海域であり、外海とのアクセスは針尾瀬戸と早岐瀬戸に限られ、いずれも幅が300m以下と非常に狭い。このような半閉鎖性海域は保有水量も海水の交換量も少ないため隣接する外海と比べて水温の変動が激しい。また、独特な地形は潮の満ち引きも外海と大きな違いをみせる。例えば隣接する五島灘での干満差は1mをゆうに超えるが、大村湾では50cm以下である。海洋環境が特徴的な大村湾であるが、生息種は隣接する外海とけっこう共通している。そこで、2007年12月に大村湾と五島灘で生息するヒラメの生態を調べるためにCTL社製の深度・水温データロガー(CEFAS G5)を取り付け放流した。調査開始前は閉鎖海域である大村湾の方が回収されやすいと予想していたが、その予想に反し大村湾で放流した個体の半数以上が外海で回収された。五島灘では運悪く(?)G5をつけた個体は1個体しか回収できなかった。再捕された個体の卵巣を組織学的に調べると卵黄蓄積を開始した卵細胞や排卵後濾胞が見つかり、大村湾の回収個体は産卵を控えたメスと既に産卵期に突入したメスであることが分かった。データロガーの記録をみてみると、記録期間中に大村湾に居残った個体は経験水温が9℃近くまで下がっていたのに対し、湾を移出した個体は13-16℃の水温を経験していた(図1)。

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図1. ヒラメの経験水温(上)と深度(下)の時系列図。2007年12月18日に大村湾に同時放流した。記録期間は最長で77日。赤・茶・緑の個体の水温の急上昇は大村湾を移出を示している。

 ロガーに記録された潮汐による深度変化を解析した結果、急激な水温の変化は湾の移出のタイミングと対応していることが分かった。外海でヒラメが経験していた水温は、卵にとって適温であり約2日で孵化を迎える。その一方で、同時期の大村湾の水温では1週間以上をかかってしまうと推測された。また、ヒラメは産卵期間に何度か産卵を繰り返す。その間に産む卵の総数(産卵回数)は産卵期間中の餌の摂取量が影響する。図1中のスパイク状に現れる深度変化はヒラメの離底行動によるものであり、おそらく移動や採餌、産卵行動に対応している。移出後の離底行動に費やした時間の割合を調べたところ移出前に比べて増加していた(図2)。また、胃が餌で満たされている個体も回収された。

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図2. 移出個体の離底行動に費やした時間の割合。東シナ海に移動した後に活発に離底行動を行うようになった。

移出により摂餌の機会も増えているとなれば、ヒラメの移動は繁殖好環境をもたらしていると考えられる。大村湾で大型の成魚が漁獲されることは稀なので、もしかしたら結構な数が成魚になると繁殖のために大村湾から移出しているのかもしれない。それにしても、ヒラメは出入り口が非常に狭い大村湾を見事に抜け出しているが、どのように狭い出口を見つけているのか、移出は単に針尾瀬戸の急潮に飲み込まれているだけなのかは興味深い課題である。

Yasuda T., Kawabe R., Takahashi T., Murata H., Kurita Y., NakatsukaN., Arai N. (2010) Habitat shifts in relation to the reproduction of Japanese flounder Paralichthys orivaceus revealed by a depth-temperature data logger. J. Exp. Mar. Biol. Ecol. 385: 50-58.

アカウミガメのクルクル行動

2010年2月22日 報告者 楢崎友子(東京大学海洋研究所)

 アカウミガメは一生を通して回遊を行う。一見すると何の目印もないような大海原で、一体どのようにして目的地を目指すことができるのだろうか?ウミガメ類の回遊を調べる際によく用いられる手法として、衛星追跡がある。これは広範囲、長期間にわたって追跡できるという点では優れているが、海中の動きは全くわからないという問題がある。そこで私たちは3-Dロガーを用いて(図1)、アカウミガメの三次元移動経路を構築し、アカウミガメが海中や水面付近でどのように動いているのか調べた。

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図1 3-Dロガー(3MPD3GT)とビデオロガー(Crittercam)を装着したアカウミガメ

 アカウミガメは移動を行う際、数分間の短い水面滞在をはさみながら、繰り返し潜水を行っていた。アカウミガメは潜水中、ある一定方向に向かってまっすぐ遊泳していたが、十数分間におよぶ潜水が終わる頃には、進行方向は潜り始め時とは若干ずれる傾向がみられた。一方、水面に浮上したアカウミガメは、ときどきクルクルとまわるような行動をすることがあった(図2)。詳しく調べてみると、アカウミガメは水面滞在中に、直前の潜水中に生じた進行方向のずれと逆の向きに進行方向を変える傾向があることがわかった(図3)。つまり、アカウミガメは、潜水中にずれてしまった進行方向を、水面に浮上した際に修正していたのだ。アカウミガメを取り巻く環境は、潜水中と水面滞在中では大きく異なる。アカウミガメは視覚情報などがより多く存在する水面に浮上した際に、進むべき方向を決めている可能性がある。

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図3 潜水中とその直後の水面滞在中に生じた進行方向のズレの関係

Narazaki, T., Sato, K., Abernathy, K.J., Marshall, G.J., & Miyazaki, N. (2009) Sea turtles compensate deflection of heading at sea surface during directional travel. J. Exp. Biol., 212, 4019-4026.

ぐるぐる回りながら餌を探すイルカ

2009年12月21日 報告者 赤松友成(水産総合研究センター水産工学研究所)


 イルカが超音波ソナーを用いて水中を探索していることはよく知られている。これに使われる音波ビームは十数度の幅しかない。イルカはまさにヘッドランプをつけたように暗闇の一部を音で照らしている。しかし、探すべき餌はどこにあるか予想がつかない。できるだけ広い範囲を探索したほうが有利だ。小型のイルカ(スナメリ)は、体を回転させながらいろいろな方向を探り、餌とりに役立てていた。もちろん首を振ることでも音のヘッドランプの方向を変えることはできるが、これはいつでもできる脇見のようなものらしい。餌をとるためには体の軸方向をそちらに向けていたほうが、餌に向かって素早く近づけるのだろう。このように体の回転でソナーをスキャンする行動は、餌とり潜水に多く見られた。

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図 底に達すると回転角度が大きく変わる(左4段目)。このとき音の発射間隔(ICI 左2段目)が急に短くなり、短距離探索をしていることがわかる。体軸そのものは水平近くに保っている(左最下段)。一方、体を回転させない潜水(右1段目)でも体軸は水平をキープするが(右2段目)、短距離探索はあまりおこなわず探索努力も小さかった。なお、写真にある首振り角度は、音源の方位のずれから計測した。

Akamatsu, T. Wang, D. Wang, K, Li, S., Dong, S. (2010), Scanning sonar of rolling porpoises during prey capture dives. J. Exp. Biol. 213, 146-152.

秒速2メートルで泳ぐ理由

2009年11月12日 報告者 佐藤克文(東京大学海洋研究所国際沿岸海洋研究センター)


 1950年に発表された理論によれば,相似形の動物は,体サイズに関わらず同じ速度で泳ぎ,鰭を動かす頻度は体重の-1/3乗に比例するとされている.これまでは飛翔性鳥類やペンギン,アザラシに鯨類と多様な動物を比較してきた.そこで,体形が似ているペンギン7種のデータを使って,もう少し細かく比べてみた.胴回り,フリッパーの長さ,面積を体重と比べてみたところ,それぞれ体重の1/3乗,2/3乗に比例していた.次に遊泳速度とフリッパーを動かす頻度を調べてみたら,前者は体重の0.083乗,後者は-0.294乗に比例する結果となり,1950年の理論と異なる事が判明した.抗力と浮力に逆らいながら色々な角度で潜降するペンギンの物理モデルを作り,必要とするエネルギーが最小となる速度を計算してみたところ,経済的な巡航速度は(基礎代謝速度/抵抗)1/3に比例するという結果になった.この予測自体は既にR. M. Alexanderや藻谷亮介といった人たちの論文で提示されているが,経済的な巡航速度が浮力や潜水深度や潜降角度に左右されないという点が新しい.さらに,基礎代謝速度が体重の3/4乗に比例する事と,抵抗と体サイズの関係を使うと,経済的な巡航速度が体重の0.05乗に,フリッパーを動かす頻度が体重の-0.28乗に比例するという予測が出てくる.これは,上記の結果に近い.つまり,ペンギンは一番少ないエネルギーで潜れる速度を選んでいたのである.

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図 ペンギンがある深度に到達する際に必要なエネルギーと遊泳速度の関係

Katsufumi Sato, Kozue Shiomi, Yuuki Watanabe, Yutaka Watanuki, Akinori Takahashi and Paul J. Ponganis. Scaling of swim speed and stroke frequency in geometrically similar penguins: they swim optimally to minimize cost of transport. Proceedings of the Royal Society London B doi: 10.1098/rspb.2009.1515 (2009).

休息中のキタゾウアザラシは落ち葉のように落ちていく

2009年11月2日 報告者 三谷曜子(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

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図1、キタゾウアザラシの未成熟個体


 キタゾウアザラシは北太平洋を回遊している間,まったく陸地にはあがらず,潜水と潜水の間に水面に滞在する時間も数分間でしかない.ほとんどずっと深い潜水を繰り返しているのである.いったい彼らはいつ休んでいるのだろうか?これまで,「ドリフトダイブ」と呼ばれる潜水(潜降の途中で,速度がゆっくりになる潜水)が休息のための潜水であると考えられてきた.このドリフトダイブ中の行動を回らかにするため,3Dデータロガー(3軸加速度・3軸地磁気・速度・深度・温度を計測)をキタゾウアザラシの未成熟個体に装着し,体軸角度や3次元の潜水経路を再現した.この結果,ドリフトダイブにおいてゆっくりと潜降している間,アザラシはお腹を上にして規則的に揺れながら,大きな円を描くように,つまり落ち葉が落ちるように潜降していることが明らかとなった(図2).このような潜降をすることによって,アザラシは潜降速度を遅くすることができ,「目覚めたときは海の奥底」という状況を回避でき,水面へと息をしに浮上するための距離も短くすることができる.このような潜水により,捕食者のいない水深で休息することができるのだろう.

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図2、キタゾウアザラシのドリフトダイブ中の行動を三次元で再現.

Yoko Mitani, Russel D. Andrews, Katsufumi Sato, Akiko Kato, Ysuhiko Naito and Daniel P. Costa. Three dimensional resting behaviour of northern elephant seals: drifting like a falling leaf. Biol. Lett. published online 28 October 2009, doi: 10.1098/rsbl.2009.0719(→FirstCite)

アホウドリの餌はシャチが準備する

2009年10月9日 報告者 坂本健太郎(北海道大学大学院獣医学研究科)

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図1、マユグロアホウドリ


 マユグロアホウドリは亜南極に生息する美しい鳥である(図1)。しかし、ひとたび飛び立ってしまえば、この鳥は一日数百kmも移動してしまうため、どこで何をしているのか、わからないことが多い。胃内容物を調べてみると魚やイカを食べている事が分かる。しかし、何の目印もない大海原でどうやって餌を探すというのだろう?しかも、この鳥は、ほとんど海に潜らないのだ。海に潜らずに、海中に生息する魚やイカを捕まえるなんて、魔法みたいだ。

 この謎を調べるために、私たちはマユグロアホウドリにカメラロガーを取り付けた。得られた写真を見ると大海原で、アホウドリは数羽の群れとなってシャチを追いかけている事がわかった(図2C)。また、その時の深度、温度の時系列プロファイルを見ると、アホウドリは30分程度シャチを追跡しながら海面への着水と浅い潜水を繰り返す事で、繰り返し餌をとっていたと推定された(図3)。これらの事から、マユグロアホウドリが巣に持ち帰る餌の内の少なくとも一部は、シャチのような高次捕食者が深海で捕食した餌生物の食べ残しであると考えられた。
 アホウドリが飛び回る海原には何の目印もない。一匹ずつ餌を取るのではなく、シャチの後を追うことで、アホウドリはそんな海原でも効率よく餌をとっていると考えられる。シャチはアホウドリの「食料調達人」なのだ。

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図2、カメラロガーから得られた画像


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図3、×印は他の個体が撮影された時刻、赤丸印はシャチが撮影された時刻

Sakamoto KQ, Takahashi A, Iwata T, Trathan PN (2009) From the Eye of the Albatrosses: A Bird-Borne Camera Shows an Association between Albatrosses and a Killer Whale in the Southern Ocean. PLoS ONE 4(10): e7322.(→Free Full Text)

成長に伴って変化するクロマグロの形態的特徴と形態機能

2009年7月18日 報告者 田村優美子(近大農)

 魚の形は,ウナギのような細長い形態からマグロのような紡錘形の形態まで様々である。鰭や魚体の形態が持つ力学的な機能性は,遊泳時の魚体に作用する流体力に大きく影響する。遊泳中のマグロには抵抗となる抗力が進行方向と逆に作用する。その垂直方向には揚力が発生し,この力で水中重量を支持している。しかし,これらの流体力を生物実験で明らかにすることは非常に難しく,魚体や鰭の形態機能は定量的に評価されていない。クロマグロの形態は成長するにつれて著しく変化するため,形態機能も成長に伴って発達することが予想される。そこで,本研究ではCFD(数値流体力学)解析を用いて,バイオメカニクス的アプローチにより成長に伴って変化するクロマグロの形態的特徴と形態機能を調べた。CFD解析は物体周りの流れ構造をシミュレーションし,流速分布や圧力分布を把握することで,物体に作用する抗力や揚力などの流体力を算出する解析技術である。これには対象物体の正確なモデリングが必要であるため,非接触三次元レーザーデジタイザを用いて,成長段階ごとにクロマグロの魚体表面形状を詳細に計測した。形態計測の結果,尾鰭のアスペクト比と後退角の成長に伴う変化は,推進力が成長するにつれて増加することを示唆した。CFD解析で得られた結果から,本種の抗力係数は全長20cmまで減少し,それより成長すると一定の値に近づく傾向が示された。胸鰭で発生する揚力と水中重量の比,揚力/水中重量は全長20cmまで増加する傾向を示した。しかし,全長20cmより成長すると迎角(体軸と流向のなす角)を変化させることで,揚力/水中重量を調整できることが示された。これらの結果は,成長に伴ってクロマグロの形態機能が発達し,推進力が単純に増加するだけでなく,鉛直方向の運動性能も高まることを示唆している。このようなCFD解析を用いたバイオメカニクスス的アプローチは魚類の遊泳能力の解明に有効な方法と考えられる。

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Fig 1 流速1.5BL/s時のクロマグロの抗力係数と全長の関係。胸鰭を広げたモデル(◆)と閉じたモデル(◇)の結果を示した.

Fig 2 胸鰭を広げたモデルの揚力/水中重量と全長の関係。流速1.5,3.0BL/sとし,魚体密度を1030,1050 kg/m3とした

Yumiko Tamura and Tsutomu Takagi (2009) Morphological features and functions of bluefin tuna change with growth. Fisheries Science vol 75, No 3, pp567-575, DOI 10.1007/s12562-009-0067-3

目視観察を自動化する技術

2009年5月6日 坂本健太郎(北海道大学大学院獣医学研究科)

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バイオロギングは、直接観察できない海洋の生物の行動をとらえるために発展してきた。これまで様々なセンサーを搭載したデータロガーが開発され、驚くべき実態が明らかにされてきた。その中でも、動物の体の動きを探知することが出来る加速度データロガーは、人間が見る事の出来ない場所での動物の動きを記録するには最適である。難点は、記録された加速度データは往々にして、解釈することが複雑な上、情報量が膨大になってしまうことである。本研究では、加速度データとして記録された行動パターンを自動的に抽出し、カタログ(加速度エソグラム)に分類する解析手法を開発した。また、この解析手法を誰でも実施できるように、操作が簡単な解析ソフトウェアを公開した(Ethographer)。ヨーロッパヒメウの加速度データを元に、本解析手法の有効性を試験したところ、これまでの知見から判明している行動パターンをきちんと抽出することが出来る事が分かった。大抵の野生動物は、その生活の大部分を人間が観察できない場所で営んでいる。これらの動物のこれまで知られていなかった生態を調べるために、本手法は役に立つだろう。

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図1、エソグラムを生成する工程の見取り図(潜水中のデータ)。 (A)各行動パターン(海面での休息、潜行、海底での行動、浮上)はデータを眼で確認して判別した。(B)深度データ。(C)surge方向の加速度成分。(D)行動スペクトル。(E)加速度エソグラムで規定された行動要素。眼で確認することで判別された行動パターンと自動生成された行動要素が比較できる。

Sakamoto KQ, Sato K, Ishizuka M, Watanuki Y, Takahashi A, Daunt F, Wanless S (2009) Can Ethograms Be Automatically Generated Using Body Acceleration Data from Free-Ranging Birds? PLoS ONE 4(4): e5379.(→Free Full Text)

論文の日本語翻訳はこちら(Text S1をダウンロードしてください)。

バタバタ泳ぎからスイスイ熟練スイマーへ

2009年4月8日 渡辺佑基 (国立極地研究所)

アザラシは水中生活に適応した海生哺乳類である。しかし、その適応はクジラほど完璧でなく、子供は陸上で生む。生まれたアザラシの子供はおずおずと海に入り、母親に習って少しずつ泳ぎを覚えていく。この時期の行動を、北極圏スバールバル諸島のアゴヒゲアザラシ(図1)で調べ、バタバタ泳ぎから熟練スイマーへと発達していく過程を追った。

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図1

生まれて初めて海に入った赤ちゃんアザラシは、すぐに潜水を開始するものの、深度は浅く、潜水時間は短く、また遊泳速度は遅い。遊泳時の足ひれの動きが表れる、加速度データをスペクトル解析すると、ノイズが多く、バタバタと無駄の多い泳ぎ方をしていることが分かる(図2上)。成長にともない、深く、長く潜っていられるようになるほか、加速度の波形が綺麗に揃うようになり、これをスペクトル解析にかけると、ノイズが減ってスムーズな泳ぎになっていったことが見てとれた。それだけでなく、離乳間近のアザラシでは、ひれの動きを止めて浮力を利用して進む「グライディング」行動が見られるようになり、新たな泳ぎ方を体得することも分かった(図2下)。

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図2

Watanabe Y, Lydersen C, Sato K, Naito Y, Miyazaki N, Kovacs KM (2009) Diving behavior and swimming style of nursing bearded seal pups. Mar. Ecol. Prog. Ser. 380: 287–294(→abstract)

スナメリの定点観察手法 〜音響観察 vs. 目視観察〜

対象種:ヨウスコウスナメリYangtze finless porpoise (Neophocaena phocaenoides asiaeorientalis)

調査地:中国揚子江中流域とポーヤン湖の接続域

ロガー:A-tag(W20-ASII/リトルレオナルド社製(2006)、ML200-AS2/MMT 社製(2007))

 揚子江のスナメリは、従来目視によって観察されてきた。しかし、スナメリが小型で背びれを持たないことや、揚子江の濁度が高く、発見が難しいという問題点があった(図1)。

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図1.揚子江のスナメリ(中央)。目視観察だけでなく、写真撮影も極めて困難。

近年発達してきた受動的音響観察手法は、本種の観察に有効であると考えられた。しかし、特に定点での音響観察では、これまで直接的に個体数や移動方向を把握することが出来なかった。そこで、本研究では、最新のステレオ式音響データロガー(図2)を用い、相対方位を分離することで個体数の計数および移動方向の抽出を試みた。その結果と目視観察結果を比較し、検出確度の検証を行った。

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図2. ステレオ式音響データロガー

 音響データロガーは、受信帯域音(70–300 kHz ;2006年、55–235 kHz;2007年)が、設定した音圧閾値以上の大きさである場合、時刻・受波音圧・2つのマイクへの到達時間差(相対方位へ変換可能)を記録する。通常の音響機材と異なり、周波数情報や波形は記録されない。音圧閾値は、スナメリ鳴音の検出範囲が最大約300mになるように135.3 dBに設定した。

 2006年と2007年、揚子江中流域とポーヤン湖の接続域に計3定点を設置し、目視観察と音響観察を同時に行った(図3)。先行研究のスナメリ潜水時間に基づき、時間窓を1分とし、1分ごとに個体数と移動方向の比較をした。目視観察では、音響観察と比較するため、推定距離300m以内の記録のみを使用した。

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図3.調査地概略図。左図、揚子江の実線はスナメリの歴史的な生息域を示す。右図、点線は流向を示す。

 結果、ステレオ式音響データロガーでスナメリの個体数と移動方向を把握できることがわかった。個体数密度や移動個体の割合は、おおよそ目視観察の結果と一致していた。音響観察によりスナメリが観察された時間は、目視観察の6倍以上長かった。しかし、目視観察では1分間に最大10頭のスナメリが観察されたが、音響的には5頭までしか数えることができなかった。これは、ロガーの相対方位の分解能によるものと考えられた。しかし、スナメリが同時に6頭以上観察される時間は、全観察時間の1%以下とごく少なかった。他の研究でもスナメリの群れは比較的小さいことが示唆されている。

 以上のことから、本手法は特に、スナメリの出現が稀である、個体数密度の低い水域での観察に高い効力を示すことがわかった。

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ヨウスコウスナメリ (中国科学院水生生物研究所にて。 撮影:酒井麻衣)

Kimura, S., Akamatsu, T., Wang, K., Wang, D., Li, S., Dong, S. and Arai, N. “Comparison of stationary acoustic monitoring and visual observation of finless porpoises.” Journal of Acoustic Society America 125, (2009) pp.547-553.

月の満ち欠けは海鳥の行動に影響を及ぼす?!

2009年1月5日 山本誉士(総合研究大学院大学)e-mail: taka.y○nipr.ac.jp (○は@を示します)

対象種:オオミズナギドリstreaked shearwater(Calonectris leucomelas)

調査地:岩手県三貫島

ロガー:ジオロケーター(Global Location Sensor logger)

   (GLS-Mk4, 25×18×7 mm, 4.5 g, British Antarctic Survey, U.K.)

 夜空に輝く月は古くから人々を魅了してきた。そのため、狼男などの月にまつわる逸話も数多く生まれてきた。では、果たして月は生物にどのような影響を与えるのだろうか?

 月(もしくは月周期)が生物に与える影響はこれまでに多く研究されてきた。例えば、満月の夜にサンゴが一斉に産卵をするのは有名な例である。だが、それらの研究は比較的小さな動物や、実験室内の動物を用いて行われてきた。海上に広い行動圏をもつ外洋性海鳥類の、自然状態下での行動を長期間、かつ連続して記録することは難しい。そのため、月が彼らの海上での行動にどのような影響を及ぼすのかはほとんどわかっていない。

 そこで、本研究では岩手県三貫島で繁殖する外洋性海鳥であるオオミズナギドリを対象種として、月が外洋性海鳥の海上での行動にどのように影響するのかを明らかとすることを目的に行った。2006年の繁殖期にオオミズナギドリに小型記録計(ジオロケーター)を装着した(図1)。この記録計により、彼らの長期的な位置と海上での行動(着水割合と着水回数)の変化を明らかとすることができる。なお、行動データは越冬期のものを解析した。繁殖期のオオミズナギドリは夜間に帰巣するため、海上での行動がわからないためである。

 オオミズナギドリは、満月の夜には長時間飛行し、また水面への着水を頻繁に繰り返していた。だが一方で、新月の夜には飛行や離着水をほとんど行わず、水面に静かに留まっていた。さらに、これらの行動は、新月と満月の日をそれぞれピークとし、周期的に変化していた。そして、その周期は月周期とほぼ同じであった(月周期:29.5日、着水割合:30.5日、離着水回数:28.9日)(図2)。

 これが本研究の結果である。では、何故オオミズナギドリの行動は月周期に合わせて変化するのだろうか?可能性としては2つ挙げられる。

 一つは対捕食者行動である。海鳥類は水面着水時にサメなどに捕食されることがある。明るい月夜に水面に着水していると影となるため、水中の捕食者から特定されやすくなる。そのような捕食者からの捕食を回避するため、月夜には頻繁に離着水を繰り返していると考えられる。

 もう一つは、月明かりを使った採餌である。海鳥類は主に視覚を使って採餌を行う。そのため、光量は採餌行動の制約となる。だが一方で、月夜には動物プランクトンが深層に留まり、そのため餌となる魚類も表層に少なくなるという報告もある。その場合、オオミズナギドリは採餌努力を増やしていると考えられる。

 本研究の結果からは、オオミズナギドリの月周期の行動変化が何故起こったのかは特定できなかった。だが、海鳥の行動に月周期(月の満ち欠け)が影響しているという明らかな証拠が示された。

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図1 オオミズナギドリとジオロケーター

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図2 月周期(○満月、●新月)とオオミズナギドリの行動の変化。(上)夜間の着水割合、(下)夜間の着水回数。

Takashi Yamamoto, Akinori Takahashi, Ken Yoda, Nobuhiro Katsumata, Shinichi Watanabe, Katsufumi Sato, Philip N. Trathan. The lunar cycle affects at-sea behaviour in a pelagic seabird, the streaked shearwater, Calonectris leucomelas. Animal behaviour, 76, 1647-1652, 2008

2008年の発見

装着型カメラロガーが明らかにしたヨーロッパヒメウのマイクロハビタット利用と獲物捕獲

2008年12月17日 綿貫豊 (北海道大学水産科学研究院)

海洋生態系における海鳥などの高次捕食者の役割を明らかにするためには、かれらのマイクロハビタット利用を明らかにすることが不可欠である。しかしながら、かれらの採食行動とハビタット利用の関係は、いままでは、粗いスケールでしか分析されてこなかった。北海道大学、東大海洋研究所、極地研究所は、英国環境研究局の研究者と協力して、スコットランドのメイ島において、2005年と2006年に、9個体のヨーロッパヒメウの背中に超小型カメラロガーを装着して、彼らの採食ハビタットの解像度の高いデジタル静止画像を15秒間隔でサンプリングした。水中の画像から、彼らはほとんど海底で採食すること、そして、明瞭に区別できる二つのハビタットすなわち岩ハビタット(クモヒトデ、ソフトコラル、海草などが分布する)と砂ハビタットで採食することがわかった。おのおのの個体がいずれかのハビタットだけを利用する傾向は見られず、1日のうちで、時には各採食トリップのうちでも両方のハビタットを利用することがあった。また、水面に出たときに嘴にくわえていた魚の映像から、獲物の種類を判別できた。採食行動は両ハビタットで異なっており、岩ハビタットでは単独で10−40mまでのさまざまな深度で採食し、ニシキギンポなどの底魚を探索しながら海底を移動していた。一方、砂ハビタットでは、しばしば複数個体が一緒に、24mあるいは32mいずれかの深度で、頭を下に向けて嘴を砂につっこんで、多分イカナゴを採食していた。岩ハビタットにおいて、大きくて水中では飲み込めない底魚を食う場合、底滞在時間は失敗した潜水では深いほど長かったが、捕獲に成功した潜水では短い傾向がありまた深度と関係なくばらついていた。底に達してから偶然に底魚を発見したときにこれを捕獲しただちに浮上することを示していると思われる。このように、本研究からヨーロッパヒメウのフレキシブルな採食行動が明らかとなった。イメージデータと潜水行動データを一緒に得ることで、こういった底採食行動者の採食成功に影響する要因の理解が進むだろう。

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Watanuki Y, Daunt F, Takahashi A, Newell M, Wanless S, Sato K, Miyazaki N (2008.) Microhabitat use and prey capture of a bottom feeding top predator, the European shag, as shown by camera loggers, Mar Ecol Progr Ser 356:283-293.

箱入り娘達の自然界での行動 〜シロクラベラ人工種苗は、放流後どのように行動圏を確立するか?〜

2008年11月25日 河端雄毅 (京都大学情報学研究科)

飼育した動物を自然界に放ち、資源の回復を図る、絶滅危惧種の保全を行うという事業が世界中で行われている。例えば、人工繁殖されたトキを放鳥したというニュースは記憶に新しいのではないだろうか。

では、飼育されていた動物は自然界に放たれると、一体どのように行動するのであろうか。 動物の視点から擬人化して考えると、この状況は、 “毎日家で何もせずに飯を与えられて生活していたら、ある日突然ジャングルに連れていかれ、ここで生きていけと勘当を言い渡される” というようなものである。 この行動を調べることは、生物学的(心理学に近い?)に興味深いだけでなく、事業の成否を評価するのに不可欠である。

私の調査しているシロクラベラは、トキほど絶滅に瀕している訳ではないが、IUCN Red ListのNear threatenedに掲載されている種であり、人工生産魚の放流による資源回復が期待されている。ベラと聞くと、ヌルっとした美味くない魚のように聞こえるが、この魚は刺身、煮付け、マース煮(塩煮)などで、非常に美味しい。

この種は、他のベラ科魚類と同様に一定の行動圏(行動範囲)を持っており、その範囲内で、餌を食い、寝ている。そこで本研究では、この行動圏に焦点を当てて、超音波テレメトリーを用いることで、人工生産されたシロクラベラが、天然海域で行動圏をどのように変化させるかを調べた。ちなみに、シロクラベラは雌性先熟(まず雌として成熟し、成長すると雄になる)であるため、放流した個体はすべて雌である。

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図1. 縦軸は行動圏(行動範囲)を示していると考えていただければと思う。異なるアルファベットは、有意差(Bonferroni post-hoc test, p<0.05)があることを意味する。

その結果、徐々に行動圏が拡大し、一定期間で安定した行動圏を有することが分かった(図1)。この拡大過程には、天然海域の構造物・餌生物の学習や同種・他種との競争などが関与しているのではないかと考えている。

※論文内では、日周移動についても書いてあるので、興味のある方は是非読んでください。

Kawabata Y, Okuyama J, Asami K, Yoseda K, Arai N. The post-release process of establishing stable home ranges and diel movement patterns of hatchery-reared black-spot tuskfish Choerodon schoenleinii. Journal of Fish Biology. 2008: 1770-1782

マンボウはどう泳ぐ?

2008年11月1日 渡辺佑基 (国立極地研究所)

私は魚の調査が好きだ。なんせ魚は分からないことだらけである。とりわけデータロガーが得意な秒単位の行動計測なぞ、どんな魚にだってほとんどやられてやしないから、装着、回収の手法さえ工夫すれば、面白い結果がぼろぼろ出てくる。「マンボウはどう泳ぐ?」という牧歌的な論文が出せたのも、魚ならではのおいしい結果であって、哺乳類や鳥の調査では難しいと思う。

マンボウは尾びれを持たないヘンテコな魚である。では、尾びれなしでどうやって泳ぐのか。結論から言うと、ペンギンと同じである。両翼をパタパタ羽ばたかせて泳ぐペンギンを、ぐるりと横に90度倒すと、マンボウになる。

これは、マンボウ遊泳時の加速度の波形から直ちに分かることである。左右方向の加速度は周期的に揺れるが、これは、マンボウが尾びれと尻びれを対にして同じ方向に振るからである(図1上)。一方、前後方向の加速度は、左右方向の倍の速さで揺れる(図1下)。これは、マンボウが対のひれを左に振ったときも、右に振ったときも、いずれのときも体が前進するからである。ペンギンも、翼を振り上げたときと振り下げたときの両方で前進する。つまり、マンボウもペンギンも、ストロークの方向は違えど、推進する仕組みは同じ「翼の原理」である。

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図1

試しに、マンボウの背びれか尾びれを根元で切り落とし、その断面図を見てみよう。すると、鳥の翼と全く同じ、綺麗な流線型が見て取れる(図2)。マンボウの背びれと尾びれは、対の翼なのだ。

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図2

しかし、考えてみるとマンボウの翼は妙である。だって、動物の翼は体の左右に付くのが常識である。昆虫、鳥、コウモリ、それに水中のマンタやクリオネなど、思いつく限りの動物は必ず、左右対称の器官を対の翼として使っている。ところが、マンボウは、背びれと尾びれという、本来対称でも何でもない背と腹の器官でそれをしている。

この点に注目して、マンボウのサンプルをたくさん集めると、面白いことに気づく。背びれと尻びれそれぞれの形は、成長とともに変わる。にもかかわらず、形の対称性は常に保たれていた(図3)。

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図3

体の内部も面白い。背びれを動かす筋肉は背骨より上に、尻びれを動かす筋肉は背骨より下に、それぞれ付いている(図4A)。見ての通り、二つの筋肉の形は全然違う。ところが、筋肉の量は常に同じであった(図4B)。筋肉は、ひれという推進器官を駆動させるエンジンである。背びれを動かすエンジンも、尻びれを動かすエンジンも、排気量は同じにできていた。

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図4

マンボウは、背びれと尻びれという本来対称でない二つの器官を、内部の筋肉量も含めて無理やり対称に仕立て上げ、対の翼にしていることが分かった。魚の泳ぎ方にはウナギ型、マグロ型などいろいろあるが、マンボウのそれはブッチギリに奇抜である。

Watanabe Y, Sato K (2008) Functional dorsoventral symmetry in relation to lift-based swimming in the ocean sunfish Mola mola. PLoS ONE 3 (10): e3446 (→free full text)

魚も溺れる

2008年6月9日 渡辺佑基 (東京大学海洋研究所)

魚は泳ぎのプロである。プロならば、水中という3次元空間を縦横無尽に泳ぎ回るのだろうか。そうではない。横方向はともかく、縦方向の遊泳を苦手とする魚がいることがわかった。

チョウザメは「生きた化石」と言われる。風貌からして変わり者であるが、体の内部にも古代魚の特徴を残しており、例えば、鰾(ウキブクロ)が消化管とガッチリ繋がっている。

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当世で幅を利かせている魚では、鰾は消化管から独立しているのが普通である。彼らは鰾内のガスを、血液を通して出し入れする。

一方、チョウザメはそうしたモダンな生理機構を持たない。鰾にガスを満たすには、水面に顔を出して口から空気を吸うしかない。この意味で、チョウザメの鰾は我々の肺と同じである。

さて、ある魚が、例えば表層の紫外線を嫌って深場へ潜行したとする。水深が増すにつれ、強い水圧が鰾を押し潰そうとするだろう。この場合、モダンな魚は血液から鰾にガスを送り込み、浮力を維持することができる。

しかし、チョウザメにはそれができない。彼は鰾をたちまちにして押し潰され、浮力を失って溺れてしまうことがわかった。

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Watanabe Y, Wei Q, Yang D, Chen X, Du H, Yang J, Sato K, Naito Y, Miyazaki N.(2008) Swimming behavior in relation to buoyancy in an open swimbladder fish, the Chinese sturgeon. J. Zool. 275:381-390

2007年の発見

サケが見た海の中

2007年12月27日 渡辺佑基 (東京大学海洋研究所)

海の中で動物たちは何をしているのか。これを調べる最も端的な方法は、その動物にカメラを載せることだろう。実際、クジラ、アザラシ、オットセイ、ウミガメなどにカメラを載せる調査が世界中で行われ、多くの成果が発表されている。しかし、カメラは他のデータロガーに比べて大きいため、調査の対象は大きな動物に限られてきた。

本研究では、新たに開発した小型デジタルカメラ(リトルレオナルド社製)を大槌湾のサケ(重さ5キロ)に載せた。カメラマンに仕立てられたと気付かないサケは、何事もなかったように大槌湾を泳ぎ回り、興味深い画像を提供してくれた(図1)。

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図1 サケカメラによる画像。a ホタテの養殖棚 b 目の前を泳ぐ他個体 c 定置網にかかったエチゼンクラゲ

湾内には定置網や養殖棚がたくさんある。サケはそれらを避け、グループで泳いでいることが画像から示唆された。

T. Kudo, H. Tanaka, Y. Watanabe, Y. Naito, T. Otomo, and N. Miyazaki (2007) Use of fish-borne camera to study chum salmon homing behavior in response to coastal features. Aquat. Biol. 1: 85-90.

飛ぶ鳥の羽ばたき頻度から体重を見積もる新手法開発

2007年12月21日 佐藤克文(東京大学海洋研究所)

 私が日々暮らす岩手県釜石市鵜住居町周辺では,鵜のみならずウミネコやカラス,ミサゴに白鳥など数多くの鳥を日々目にすることができる.彼らの飛び方は千差万別だが,中でも岩場から飛び立ったウミウが海面に沿って飛んでいく様子は,他の鳥の優雅な飛び方に比べて何ともせわしない.彼らの翼が小さいせいだろうか?同じサイズの羽で,より重い体を持ち上げるためには,せわしなく羽を動かさねばならないであろう事は容易に想像できる.この予想は,過去になされている物理学的な考察からも正しい.羽を動かす振幅が同じ場合,羽ばたき頻度は体重の平方根に比例する事が理論的に導き出されている.  この理屈にしたがって,飛ぶ鳥の体重を羽ばたき頻度から見積もる手法を開発した.その目的は,個々の鳥の体重を経時的に把握することで,採餌旅行中の餌獲得量を潜水バウト毎に推定することにある.多くの海鳥は沿岸域の繁殖場から餌のある海へ向かい,採餌のための潜水を繰り返し,その後,雛へ給餌するために巣に戻るといったことを繰り返すCentral Place Foragerである.近くにある餌場と巣の間を頻繁に往復するべきか,遠方にある餌場まで行き一度に大量の餌を運ぶべきか,それぞれの個体がいかに振る舞っているのかを調べる事は,行動生態学上の興味深い課題である.彼らの採餌行動を理解するためには,飛翔に要するエネルギーコストと毎回の捕獲餌量を把握する必要がある.しかし,行動半径が広く,直接観察ができない海鳥において, それらのパラメータを得ることは難しかった(図1).

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図1 採餌旅行に出かけるヨーロッパヒメウ

 今回,スコットランドのメイ島で繁殖を行っているヨーロッパヒメウ(体重2kg弱)を対象に野外実験を実施し,毎回の採餌旅行における獲得餌量や1回の採餌旅行内に含まれる複数回の潜水バウト毎の獲得餌量を見積もることができた.各個体には,飛行中の羽ばたき頻度をモニタリングするために動物搭載型の加速度データロガー(M190-D2GT, 18g, Little Leonardo社製)を取り付けた.加速度データロガーは64Hzのサンプリング頻度で,体の長軸方向と背腹方向の加速度を1日にわたって記録できる.深度(1Hz)も同時に記録し,潜水行動もモニタリングした.データロガー装着時と回収時の体重は,バネばかりを用いて測定した.2回の体重測定値の内,低い値を空胃体重と見なし,採餌旅行に出かける最初の飛行時の羽ばたき周波数に対応させた.その後,飛行時の羽ばたき頻度が体重の平方根に比例するという関係式に基づいて,体重を計算した.  得られた時系列データには,鳥が巣から餌場まで移動し,その後,潜水バウトやバウト間の移動を繰り返して,最後に巣まで戻ってくる間の飛行中の羽ばたき頻度が記録されていた.1回の飛行中の羽ばたきの様子を見ると,離陸時にはいくらか高い周波数で羽ばたいているが,十数秒以内に周波数は下がり,その後はある一定の周波数が維持される事がわかった.そこで,その一定値をもちいて飛行毎の体重を見積もった.  推定体重は1回の採餌旅行内で変動していた.採餌旅行に出かける際の体重と,戻ってくる時の体重差,すなわち獲得餌量は,マイナス30g(餌が捕まらず糞を排出したため体重が減ったと解釈できる)から最大260gまでの値をとっていた(n=16 birds).この値は,胃内容物を直接採集するやり方で測定された過去の知見(8~208g)に良く一致している.1回の採餌旅行による獲得餌量は,不思議なことに餌捕りに直接関連すると思われる総潜水時間とは無関係で,総飛行時間と正の相関関係になった(図2).つまり,短時間しか飛ばない時の獲得餌量は少なく,長時間飛んだ時の獲得餌量が多かったのである.今回開発した手法により,潜水バウト毎の獲得餌量も推定できるようになった.個々のバウト長と獲得餌量の間には正の相関が見られた.

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図2 1回の採餌旅行で獲得した餌量と,総潜水時間(a)および総飛行時間(b)との関係.プロットの色と形は各個体を表す.

 以上の結果から,以下のような採餌戦略が見えてくる.ヨーロッパヒメウには,近距離の餌場に行き少ない餌量でも頻繁に巣に持ち帰るやり方と,遠距離の餌場で大量の餌が得られるまで粘ってから巣に戻ってくるやり方がある.個体毎にどちらか片方に特化しているのか,それとも同一個体が両方を採用しているのか.あるいは,その中間形を採用する個体もいるのだろうか?これらの問いに答えるためには,今後,より長期間にわたって加速度データを取得する必要がある.まもなく開発されるであろう,新型加速度計の完成が待ち遠しい今日この頃である.

Katsufumi Sato, Francis Daunt, Yutaka Watanuki, Akinori Takahashi, Sarah Wanless. A new method to quantify prey acquisition in diving seabirds using wing stroke frequency. Journal of Experimental Biology 211: 58-65 (2008).

The effect of water temperature on habitat use of young Pacific bluefin tuna Thunnus orientalis in the East China Sea

2007年6月18日 報告者 北川貴士(東京大学海洋研究所)

 クロマグロの詳細な回遊生態を把握することは、今後太平洋において国際管理を導入する上で重要な課題となっているが、これまでの情報の大部分は、漁獲データや標識放流に基づく大まかなものであった。本研究では、アーカイバルタグを本種未成魚の回遊生態研究に適用することにより、東シナ海における冬季から夏季にかけての水平移動状況とそれに影響を及ぼす環境要因を明らかにすることを目的とした。

 (独)水産総合センター遠洋水産研究所では,対馬沖で漁獲された当歳、1歳魚にこのタグを装着し、1995年から1997年の11−12月に合計166個体を放流している。放流個体は尾叉長43−78cmであった。本研究では,タグに記録された水温、照度データから推定された緯・経度情報、人工衛星画像をもとに、本種の当海域での南北回遊の経年的な違いに及ぼす海洋構造の影響について検討した。

 冬季、どの年も基本的には対馬、済州島、五島列島に囲まれた海域に分布していたが、黒潮フロント域まで南下回遊する個体もあった。特に全体的に水温の比較的低い1996年は南下傾向にあった。3月から4月に黒潮の勢力が強くなるにつれ、対馬暖流の勢力も増す傾向にあり、それに伴い前月に黒潮フロント域にまで南下した個体も対馬、済州島、五島列島に囲まれた海域にまで北上し、そこで6月末まで滞留した。特に1996年は、約25℃の黒潮系暖水が五島沿岸まで張り出してきており、この暖水は五島と黒潮フロント域の間に貫入していた。この暖水の貫入により、前月から黒潮フロント域にいたクロマグロは北上を妨げられ、黒潮フロント域に留まった(図参照)。5月に入ってもこの暖水の張り出しは維持されたため、数個体は黒潮フロント域に留まり続けた。

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図:1996および1998年4月のアーカイバルタグ装着個体の分布および人工衛星画像情報

 以上のように、アーカイバルタグとリモートセンシングをあわせて利用することで、黒潮の勢力の経年的な変化やそれがもたらすクロマグロの生息環境の変化が東シナ海での分布や回遊のタイミングに大きな影響を及ぼしていることを具体的に捉えることができた。

T. Kitagawa, A. Sartimbul, H. Nakata, S. Kimura, H. Yamada, and Akira Nitta

The effect of water temperature on habitat use of young Pacific bluefin tuna Thunnus orientalis in the East China Sea

FISHERIES SCIENCE 2006; 72: 1166–1176

歩くか這うか?

2007年5月29日 報告者 国立極地研究所、カリフォルニア大学サンタクルズ校 依田憲

動物行動学者とは、動物一匹(一頭、一羽)を追いかけ回すのが好きな人です。たとえば、庭のアリを見つけたら、ずっとその一匹を追跡する、それを少々科学的にしたものが動物行動学。アリが地面の巣の中に入ってしまったら、仕方なく追跡終了。少しトライしてみれば分かることですが、動物をずっと追跡するのは、本当に難しいことです。そして、我々は、見えなくなったその先で彼らは何をしているのだろう、と想像を巡らせます。「その先」を知るために、加速度データロガーが誕生しました。一般的に、動物の「行動」は「動き」として認識されます。ということは、動物の「動き」を「加速度(振動のようなもの)」として記録すれば、逆に「加速度」から「行動」を再現できるのでは、という発想です。残念ながら、加速度データロガーはアリには搭載できるサイズではありませんが、私たちはペンギンにデータロガーを接着し、人間がおいそれとは追跡できないペンギンの行動を再現しました (Yoda et al. 2001)。この技術は、アザラシなどの潜水動物だけでなく、ネコなどの陸上の動物にも応用されています(Watanabe et al. 2005)。

南極で繁殖するアデリーペンギンエンペラーペンギンは、氷の上を移動するときに、歩くか、這って進むか(トボガン滑りといいます)を選択します(写真)。トボガン滑りの方がラクに進めることが知られていますが、氷の状態によってはトボガン滑りできないこともあり、ペンギンは状況に合わせて移動方法を選択していると考えられます。また、歩いたりトボガン滑りしたりして餌場まで行くのにかかる時間やエネルギーは、潜水・採餌行動にも影響することが予測されます。たとえば、餌場まで行くのに時間やエネルギーがかかると、長い時間をかけて餌とりをおこなうでしょう(最適採餌モデルによる予測)。 photo2.jpg
写真:歩行するペンギン、トボガン滑りするペンギン

本研究は、南極アデリーランドで実験をおこないました。異なる海氷状態(氷の表面がスベスベな時とガタガタな時)で餌をとる21個体のアデリーペンギンの陸上移動、潜水行動を加速度データロガーで記録しました。繁殖期の親のペンギンにデータロガーを装着し、餌とりから帰ってきたところを捕獲します。データロガーのメモリに記録されたデータをダウンロードして、解析をおこないます。加速度データから、ペンギンの餌取り旅行の行動が再現できます。たとえば、歩行しているときと、トボガン滑りをしているときとでは、記録される加速度のパターンが異なるので簡単に判別でき、時間(歩いていた時間など)や行動の連鎖を見ることができます(図)。
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図:データロガーで記録された歩行とトボガン時の加速度

データ解析の結果、アデリーペンギンの親は、海氷がスベスベな時にはトボガン滑りを多用し、ガタガタな時には歩いていました。氷の状態が悪いときには、氷の上を滑ることができないのでしょう。また、最適採餌モデルの予測通り、歩行を多くおこなったときには、餌とり時間に費やす時間が多くなっていました。さらに、持ち帰った餌の量や、親が自分に投資したエネルギー量も海氷状態によって変わり、これにも陸上移動が関係している可能性が示唆されました。

地球温暖化によって、海氷の状態が変わり、ペンギンの個体数なども影響を受けている可能性が指摘されていますが、短期間におこるダイナミックな海氷変動に対しても、ペンギンは行動を変化させることが分かりました。この研究のような短い時間・空間スケールの研究が、長い時間スケールで現れる地球温暖化とどう繋がるかは分かりませんが、ペンギン一羽が見事に(けなげに?)氷の変化に対峙する様子を見るだけで、動物行動学者はホクホクとしてしまうのです。

K. Yoda and Y. Ropert-Coudert Temporal changes in activity budgets of chick-rearing Adélie penguins Marine Biology 151, 1951-1957 (2007)

天然および人工生産されたマクブーを追いかける

2007年5月24日 報告者 河端雄毅 (京大院情報)

 馴染みのない名前かもしれませんが、シロクラベラ(地方名:マクブー)は沖縄県の3大高級魚の1つとされる非常に市場価値の高い魚です(リンク先を参照)。近年漁獲量が減ったため、人工的に孵化させ、ある程度のサイズまで育てて、天然海域に放流する「栽培漁業」が開始されました。

 しかし、人工的に生産された魚(人工生産魚)は狭い飼育水槽で育てられるため、天然海域に放流した後、天然魚と異なる行動をとり、様々な捕食者に食べられてしまう可能性があります。例えば、ヒラメの人工生産魚は天然魚に比べて、餌を取りに海底を離れる時間が長く、捕食者に食べられやすい傾向にあることが明らかにされています(古田, 1993)。また、我々の研究グループが行ったアカアマダイの研究では、天然魚が昼行性を示すのに対して、人工生産魚の中には夜行性を示す個体が含まれていることが明らかになりました(Yokota et al., 2006)。そのため、夜行性のマアナゴなどの捕食者に食べられやすい可能性が考えられています。

 本研究では、シロクラベラの人工生産魚と天然魚が天然海域に放流後、「どのように移動するのか?」「どのような活動リズム(昼行性、夜行性など)を示すのか?」という2つの疑問に答えることを目的としました。これらを調べるために、設置型受信機と超音波発信機を用いて、人工生産魚と天然魚を追跡しました(図1)。これらの機器は、受信機の受信範囲内に発信機を付けた生物が居た場合、そのIDと時刻を記録するというものです。また、受信範囲内に居たとしても、ブロックなどに隠れていると発信機の信号が遮断されます。

 今回の結果からは、人工生産魚と天然魚が、どちらとも放流地点に2週間以上滞在すること、昼に活動的で夜にブロックなどに隠れて休息するという昼行性を示すこと(図2)が分かりました。今後は更に詳細に両者に行動を明らかにしていく予定です。

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図1.設置型受信機と超音波発信機による追跡

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図2.人工生産魚と天然魚の典型的な活動パターン。黒の太線が夜間を、白の横線が昼間を表す。どちらとも、夜間に比べて昼間に受信が多いのが分かります。

Y. Kawabata, J. Okuyama, H. Mitamura, K. Asami, K. Yoseda & N. Arai. Post-release movement and diel activity patterns of hatchery-reared and wild black-spot tuskfish Choerodon schoenleinii determined by ultrasonic telemetry. Fisheries Science. (in press)

2006年の発見

ジュゴンはいつ鳴いているのか?

2006年11月27日 報告者 京都大学大学院情報学研究科 市川光太郎

 絶滅が危惧されるジュゴン(Dugong dugon)は温暖な海域に生息する草食性の海生哺乳類である(図1)。ジュゴンは、一日の大半を水深3m以浅の浅海域で過ごす。このためジュゴンと人間の活動圏が重複している海域では、ジュゴンの保護と地域住民との間で、しばしば軋轢が生じることがある。両者が共存出来うる保護対策を講じるには、ジュゴンの利用海域の時間・場所特性を把握した上での施策が必要である。しかし、ジュゴンの行動周期に関する科学的知見は極めて少ない。これは、ジュゴンの行動観察は目視観察に依るところが大きく、断片的・経験的な情報しか得られないことに起因する。そこで本研究では、ジュゴン鳴音を複数の水中マイクを用いて録音する受動的音響観察手法による長期間連続モニタリングを試みた。

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図1. タイ国トラン県タリボン島周辺海草藻場で摂餌中のジュゴン。写真提供:プーケット海洋生物学センター

 タイ国トラン県タリボン島南部海域の海草藻場が発達した浅海域にステレオ式自動水中音録音システム(ジュゴン用)を設置して受動的音響観察を行った(図2)。録音は、2004 年2 月24 日午前10:00 からの連続48 時間(前半期間)及び同年2月28 日午前10:00 からの連続116 時間(後半期間)に亘って実施した。観測期間中の干満差は、前半期間(2.55 + 0.25 m, n=4)が後半期間(1.04 + 0.53 m, n=12)に比べて有意に大きかった(t-test, P<0.001)。

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図2.調査地はタイ国トラン県に位置するタリボン島周辺の海草藻場

 延べ164 時間の録音の結果、合計で3,453 件(前半664 件:13.8 件/h、後半2,789 件:24.8 件/h)の鳴音が検出された。鳴音の発声頻度を解析したところ、前半期間で5.25 時間周期及び24.25 時間周期(潮汐周期は12時間)が確認され、後半期間では25.58 時間周期(潮汐周期は13時間)が確認された。前・後半期間共に午前3:00から午前6:00までの3時間に一日のうちで最も多くの鳴音発声が記録され、船舶騒音が頻繁に記録された日中には鳴音はほとんど検出されなかった(図3)。

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図3. 発声頻度の時系列変化

 以上から、鳴音発声周期は概潮汐リズムだけではなく、日射や船舶騒音に対する忌避反応も加味されると考えられた。更に1秒以内の間隔で発声された連続鳴音についてその音源方位を計算した。後半期間では連続鳴音での音源方位の分散が前半期間に比べて有意に大きかった(t-test, P<0.001)。鳴音の単位時間当たりの回数(前半13.8 件/h、後半24.8 件/h)と合わせて干満差の大きな前半期間よりも干満差の小さな後半期間の方がモニタリングエリア内で発声した個体数が多いことが推測できる。

K.Ichikawa, C.Tsutsumi, N.Arai, T.Akamatsu, T.Shinke, T.Hara and K.Adulyanukosol. Dugong (Dugong dugon) vocalization patterns recorded by aoutomatic underwater sound monitoring systems. J.Acoust.Soc.Am., 119(6), 3726-3733 (2006).

データロガーでアザラシの健康診断

2006年8月21日 報告者 東京大学海洋研究所 渡辺佑基

あなたは御自分の体脂肪率をご存知ですか? ヒトでも動物でも、体脂肪率は健康状態の指標として重要である。それを測定するには、ヒトならば、体脂肪計に乗って数秒間「気をつけ」をすれば完了、実に簡単だ。しかし、勝手気ままに動き回る野生動物の場合はどうすればよいか。本研究では、野生のバイカルアザラシを例にとり、行動を計測するデータロガーが「体脂肪計」にもなり得ることを示した。

アザラシは、餌の魚を捕えるため、海深く数百メートルまで潜る。その際、潜り始めこそ脚鰭を左右に打ち振るって推進力を発生させるが、潜行の途中で鰭の動きを止め、あとは重力に身を委ねて沈んでいく。その「グライディング」区間の速度をデータロガーで測定し、簡単なニュートン方程式に当てはめることで、動物の体密度を計算した。ところで、動物の体密度は、主に体脂肪率によって決まる(脂肪は他の体組織に比べ密度が低いため)。これを利用し、算出した体密度から体脂肪率を推定した。

本実験で用いたバイカルアザラシの体脂肪率は45%と推定された。アザラシさん、若干肥えていらっしゃるようで。

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Watanabe Y, Baranov EA, Sato K, Naito Y, Miyazaki N (2006) Body density affects stroke patterns in Baikal seals. Journal of Experimental Biology 209: 3269-3280

本論文は、Journal of Experimental Biology誌において、ポンチ絵入りで紹介されました(→こちら)

人工生産されたメコンオオナマズは未経験の悪環境を回避できる

2006年7月2日 報告者 京都大学大学院情報学研究科 三田村 啓理

タイ国では、メコンオオナマズの保全・保護並びに持続的な食料資源確保を目的に、これまで人工生産されたメコンオオナマズをメコン川だけでなく多くの湖沼へ放流してきた。放流後に人工生産魚が環境やその変化に対応した行動をとることができるかが、効率の良い放流事業につながる。人工生産されたメコンオオナマズは、水産試験場の飼育池で長期間蓄養されてきたため自然水域の環境やその変化を経験したことがない。そのため放流後に人工生産魚が環境、本研究では特に水温と溶存酸素、に対応して行動するかを調べた。

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左図.メコンオオナマズの昼夜毎の鉛直移動. 右図.遊泳深度と経験水温の関係(上図).遊泳深度頻度分布と水温および溶存酸素の鉛直分布との関係(下図).三角が水温、四角が溶存酸素を示す.

調査は、タイ国北部パヤオ県のメプン湖(表面積約8.3km2、最大水深約15m)でおこなった。人工生産魚1尾にDTロガーと切離装置を装着して、2004年8月2日に放流した。放流から98時間後に放流地点から2.2km離れた地点で、実験魚から切り離されたDTロガーを回収した。得られたデータの99%以上が、深度3m以浅であった。昼間は鉛直移動を繰り返していたのに対して、夜間は浅い深度で遊泳深度を変化させなかった。湖全域において、湖底から表面までの水温が25〜30℃であり、強い水温躍層はみられなかった。また実験魚の経験水温は約28〜30℃であった。このため本実験期間中において、実験魚の鉛直移動は水温には制限されていなかったであろう。これに対して溶存酸素は深度3m以浅では60%以上であったが、深度3m以深10%程度に急減した。一般的に多くの魚類は、10%程度の貧酸素では生残できないと言われている。これらの結果から、貧酸素水塊を経験したことがない人工生産されたメコンオオナマズは、自然水域に放流されても貧酸素という環境に対応した行動をとることができることが明らかとなった。

Hiromichi Mitamura, Yasushi Mitasunaga, Nobuaki Arai, Yukiko Yamagishi, Khachaphichat Metha, Thavee Viputhanumas. Vertical movements of one Mekong giant catfish Pangasianodon gigas monitored by multi-sensor micro data logger in Mae Peum Reservoir, northern Thailand. Hydrobiologia. (in press)

足かきカワウと羽ばたきリトルペンギン

2006年6月21日 報告者 国立極地研究所 加藤明子

潜水動物にとって浮力は水中での運動のコストを決める重要な要因となる。浮力は潜水深度とともに減少するが、羽毛や呼吸器官に空気を持ったまま、浅い潜水をする鳥は、浮力に逆らうために多くのエネルギーを使っていると考えられる。小型の加速度データロガーを用い、浅い海の底で餌をとる、足かき潜水のカワウと羽ばたき潜水するリトルペンギンの行動を比較した。

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ウは深く潜るにつれて、足かきの頻度と強さを下げ、ほぼ一定の早さで泳いでいたが、ペンギンは深度によって羽ばたきの頻度や強度を変化させず、どんどん加速していった。底ではウは羽ばたき頻度が低く、若干体を下に向けていたが、ペンギンは体を水平に保って激しく羽ばたいていた。また、ペンギンは海底近くで激しく羽ばたくことがしばしばあったが、ウではほとんどみられなかった。

カワウとリトルペンギンでは異なる戦略で採餌しており、ウは海底で動きの鈍い魚を、ペンギンはもっと動きの激しい魚を餌としているようだ。

Kato A, Ropert-Coudert Y, Gremillet D and Cannell B (2006) Locomotion and foraging strategy in foot-propelled and wing-propelled shallow-diving seabirds. Marine Ecology Progress Series 308: 293-301.

カワウの遊泳速度を餌の魚と比べてみた

2006年6月21日 報告者 国立極地研究所 Yan Ropert-Coudert, 加藤明子

グリーンランドで繁殖するカワウ(Phalacrocorax carbo)の潜水中の遊泳速度をPDTデータロガーで記録した。カワウは平均1.6m/sで4.7mまで潜水し、底では0.8m/sに減速するが、たまに4m/sまで加速することもあった。カワウは目的の深度までいくと、ゆっくり餌を探し、底でじっとしている魚を見つけるとそうっと近づき、首だけをシュッと伸ばしてパクリとやり、逃げる餌を追いかけるときにはダッシュしているのだろう。また、体重の重いオスは、軽いメスよりも遊泳速度が速かった。

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左図)潜行中(上)と底(下)でのカワウの雄(赤)と雌(緑)の遊泳速度。 右図)カワウと餌となる魚の速度の比較。ゆっくり泳ぐときとダッシュするときのカワウと魚の遊泳速度はそれぞれ等しい。

Ropert-Coudert Y, Gremillet D. and Kato A (2006) Swim speed of free-ranging great cormorants. Marine Biology 149: 415-422.

羽ばたき飛翔と滑空飛翔の心拍の差は小さかった

2006年6月19日 報告者 国立極地研究所 Yan Ropert-Coudert, 加藤明子

羽ばたき飛翔は滑空飛翔に比べエネルギー消費が大きいと考えられており、カツオドリは羽ばたき飛翔と、飛び込み潜水の後の水中での羽ばたきというコストの高い行動のため、野外での代謝が高いと考えられていた。

代謝速度は心拍数に比例するため、心拍数を測ることによって代謝速度を推定することができるといわれている。我々は加速度ロガーとECGロガーを用いてケープシロカツオドリ (Morus capensis) の行動に伴う心拍数の変化を記録した(a, b)。

羽ばたき中(255.5 bpm)は滑空中(217.2 bpm)に比べ心拍数が高く、心拍数は行動の変化とともに急激に変化した(c)。しかし驚いたことにその差は小さく、わずか20%であった。これでは羽ばたき飛翔のコストが大きいためにFMRが高いという説明はあてはまらない。すなわちカツオドリの心拍数と代謝速度には直線的な相関関係はなく、拍出量が一定でない可能性が示唆された。

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(a)南アフリカのケープシロカツオドリ。尾羽の上面にECGロガーを、下面に加速度ロガーをテープで装着した。

(b)飛翔中の加速度とECGの変化。

(c)飛翔中の心拍間隔の変化。滑空から羽ばたき、羽ばたきから滑空へ変わるとき、心拍間隔も直ちに変化する。

Ropert-Coudert Y, Wilson RP, Gremillet D, KatoA, Lewis S, Ryan PG (2006) ECG Recordings in free-ranging gannets reveal minimum difference in heart rate during powered versus gliding flight. Mar Ecol Prog Ser 328:275-284.

アザラシは見ていた

2006年6月11日 報告者 東京大学海洋研究所 渡辺佑基

南極大陸から海に張り出す棚氷は、厚さが100m以上もあり、その下にどんな生物がいるのか、ハイテク機器をもってしてもその調査は難しい。本研究では、南極のウェッデルアザラシに動物装着型カメラを取り付けることで、彼らを「自動サンプリング装置」に仕立てた。

アザラシは潜水中、棚氷の裏に潜り込んで摂餌をしていた。カメラから得られた画像には、棚氷の裏に張り付く無脊椎動物が多数写っていた。南極の棚氷は、生物に居場所を提供することで、あたかも上下逆さまの海底のような役割を果たしていることが明らかになった。

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(左上)南極の棚氷

(右上)カメラを背負ったウェッデルアザラシ

(左下)アザラシカメラによる棚氷の裏の画像。パッチ状に群れる刺胞動物。水深150m

(右下)アザラシカメラによる棚氷の裏の画像。Antarcturus sp.と思われる等脚類。水深161m

Watanabe Y, Bornemann H, Liebsch N, Plotz J, Sato K, Naito Y, Miyazaki N(2006) Seal-mounted cameras detect invertebrate fauna on the underside of an Antarctic ice shelf. Marine Ecology Progress Series 309: 297-300

翼を使って潜る海鳥の遊泳速度とストロークパターン:ウミスズメ科とペンギンの比較

2006年6月6日 報告者 北海道大学大学院水産科学研究院 綿貫豊

 潜水する鳥類においては、深度とともに羽毛や肺にためられた空気の体積が減少するので浮力も減少し、また速度とともに流体力学的抵抗が増加する。これらふたつの要因は、翼を使って空中飛行と水中遊泳の両方をおこなうウミスズメ科と遊泳だけをおこなうペンギン科のいずれにおいても、潜水パターンと運動に作用するだろう。野外で潜水する、4種の体重0.6−1.0kgのウミスズメ科鳥類と1.2kgのコガタペンギンに超小型2軸加速度深度温度記録データロガーを装着し、その潜水行動、遊泳速度と羽ばたきパターンを比較した(写真1)。潜水深度は種間で大きく異なったので、20m程度の深度までの潜水を抜き出して解析した。その成果は、Watanuki Y, Wanless S, Harris M, Lovvorn JR, Miyazaki M, Tanaka H, and Sato K. (2006) Swim speeds and stroke patterns in wing-propelled divers: a comparison among alcids and a penguin. J. exp. Biol. 209: 1217-1230、として発表されている。加速度の低周波数成分と高周波数成分をつかって、沈降浮上時の体軸角度と羽ばたきをそれぞれ解析した。遊泳速度は、体軸角度と時間当たり深度変化から推定した。

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写真1 オオハシウミガラスと2軸加速度および体軸角度。尾から頭方向がサージで腹から背方向がヒーブ。

 ハシブトウミガラスとウミガラスはいずれもほぼ垂直に沈降したが、オオハシウミガラス、ウトウ、コガタペンギンは斜めに沈降した。すべての種において沈降時の遊泳速度は比較的狭い範囲に収まっていた。20−30mより浅い深度ではすべての種類で上向きの浮力を持っており、羽ばたかずに浮上した。沈降時には、コガタペンギンは深度によらず常に翼の打ち下げと打ち上げ両方で前進加速していた(図1)。一方ウミスズメ科では、沈降中は、10mより浅いところでは打ち下げ打ち上げ両方で前進加速したが、深いところでは主に打ち下げでのみ前進加速した(図1)。ウミスズメ科でのこの調節は浮力変化に合わせているものと思われた。コガタペンギンはウミスズメ科に比べ、打ち下げ時の前進加速は小さく、打ち上げ時のそれは大きかった。このパターンは多分ペンギンではウミスズメ科に比べ、相対的に打ち上げに使う小胸筋が大きいからだろう。その結果としてペンギンは瞬間速度の変化をより小さくして遊泳できるのだろう。

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図1コガタペンギンとウミガラスの沈降時のヒーブ(青)とサージ(赤)の1秒間の変化。横棒は打ち下げ時間を示す。

足でこいで潜水する海鳥は深度とともに変化する浮力に合わせてストロークとグライドを調節している

2006年6月6日 報告者 北海道大学大学院水産科学研究院 綿貫豊

 底で採食する肺呼吸潜水動物は採食場所である底と海面の間の移動時間を短くすることで底滞在時間を延ばすことで餌獲得率をあげるだろうと考えられている。これを達成するために海鳥は潜水角度や遊泳速度などを調節することが可能である。しかしながら、深度とともに浮力は変化するので、海鳥は潜水深度によっても行動を変化させると予想される。この予想が、スコットランドの研究者と共同し、スコットランドのメイ島に繁殖し、足でこいで40mまで潜るヨーロッパヒメウ(写真1)の背中に2軸加速度深度温度記録データロガーを装着し、加速度を64ヘルツで、深度を1秒毎に測定して確かめられた。その成果は、Watanuki Y, Takahashi A, Daunt F, Wanless S, Harris M, Sato K, and Naito Y (2005) Regulation of stroke and glide in a foot-propelled avian diver. J. exp. Biol. 208:2207-2216.、として発表されている。

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写真1ヨーロッパヒメウの家族。通常2−3羽の雛をオスメス交替で育てる。島周辺と対岸の本島沿岸で40mくらの海底近くまでもぐっておもにイカナゴを捕食する。

 ヨーロッパヒメウはほぼ鉛直(60−80度)に沈降し浮上した。沈降中、前進するためのパワーストロークの頻度は、ストローク時間を比較的一定に保ちグライド時間を長くすることで、深度とともに減少した(図1)。その結果として、遊泳速度は秒速1.2−1.8 m/sの間におさまっていた。また、深く潜った潜水の方が、沈降時の平均ストローク頻度は小さくなった。浮上は足こぎせずにおこなわれ、水面に近づくにつれて、浮力が増すために、遊泳速度は速くなった。パワーストローク時間とその強度は比較的一定に保たれており、筋収縮を最適化していることが予想された。

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図1ほぼ40mまで潜った潜水について、おのおのの深度における、1回の足こぎあたりのストローク時間(白ぬき)とグライド時間(塗りつぶし)(b)、これらの和の逆数で計算した足こぎ頻度(a)、およびかく足こぎにおける最大のヒーブ(背腹加速、塗りつぶし)とサージ(前進加速、白ぬき)(c)。

羽ばたいて潜水する海鳥のストロークとグライド:空気を多量に持ち深く潜水するハシブトウミガラスは羽ばたき頻度を変えて浮力に対して推力を調節している

2006年6月6日 報告者 北海道大学大学院水産科学研究院 綿貫豊

 肺と羽毛に多量の空気をもち羽ばたいて垂直に深く潜水する海鳥は、水圧とともに変化する浮力に対し、滑らかに平均推力を調節しなくてはならない。しかも、筋肉は一定の収縮速度で高い効率をもつため、羽ばたいている間はストローク時間を一定にたもつ方が有利である。我々は、ノルウエーの研究者と共同で、スピッツベルゲン島のニーオルセンに繁殖するハシブトウミガラスに装着型データロガーを装着し、体軸方向と背腹方向の加速度を32ヘルツで記録して、変化する浮力抵抗に対する羽ばたき調節を解析した。その成果は、Watanuki Y, Niizuma Y, Gabrielsen GW, Sato K, and Naito Y (2003) Stroke and glide of wing-propelled divers: deep diving seabirds adjust surge frequency to buoyancy change with depth. Proc. Royal Soc. Lond. Ser. B 270:483-488.、として発表されている。  ハシブトウミガラスは79度の俯角で沈降し、一定の深さに滞在した後、56度の仰角で浮上した。沈降しはじめには、翼の打ちあげを強く(最大9.6m/s2)することで、打ち下げ打ち上げ両方で推力を高頻度(毎秒3.2回)発生させた。これによって大きな浮力に逆らって、推定される最適遊泳速度(1.2-1.8m/s)に素早く達していた(図1)。

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図1 80m以上の潜水について、沈降浮上時の前進推進頻度(1秒毎のサージのピーク数)と1秒毎の遊泳速度を深度に対してプロットした。

空気の圧縮により浮力がなくなる深度より深い深度で底滞在したときは、負の浮力と抵抗に抗すため毎秒3回連続推進し、それより深い深度で滞在した時は毎秒3回の推進を6.2秒続け、1.5秒休むことをくり返すことで平均毎秒推進回数を下げていた(図2)。浮上し始めには、弱く(最大4.9 m/s2)低頻度で(毎秒0.8回)はばたき、打ち下げでのみ推力を発生し、上向きの浮力が生じる深度近く(57m)ではばたきを止め、速度を2.3m/sまで上げながら浮上した(図1)。予想通り1回のはばたき時間(0.4-0.5秒)をほぼ一定に保ちつつ、このように羽ばたきの強さと羽ばたき停止時間を、進行方向と浮力変化に応じて細かく変えることで毎秒の推進回数を滑らかに調節していた。

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図2 深く潜った時の底滞在時のヒーブ。数秒連続羽ばたきしてグライドしているのがわかる。

超音波テレメトリーを用いたアカアマダイ人工種苗および天然魚の行動特性比較

2006年6月2日 報告者 京都大学大学院情報学研究科 横田高士

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図1 舞鶴湾と実験海域

アカアマダイは関西地方で需要が高く,特に若狭湾産のものは「若狭ぐじ」として重宝されます。しかし,近年,資源量が減少したまま低水準で推移しているため,適切な資源回復方策が求められています。本種は生活史を通して大きな移動を行わないと考えられていることから,栽培漁業の対象種として期待されています。そこで,アカアマダイ天然魚および人工種苗の腹腔内に20-60秒に一信号を発する超音波発信機(V8SC-6L,VEMCO社,カナダ)を装着して舞鶴湾(図1)に放流し,二種類の受信機(VR2およびVR60,VEMCO社,カナダ)を用いて湾内を追跡しました。

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図2 設置型受信機(VR2)に記録された受信頻度の日周リズム

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図3 人工種苗1尾に見られた昼夜が反転した日周リズム

放流後0-13日間は,人工種苗,天然魚ともに放流地点付近の広範囲を移動しました。その後も湾内で追跡できた天然魚および人工種苗(一尾の例外を除く)からの超音波信号は,昼間に高頻度で記録され,夜間はほとんど記録されていませんでした(図2)。この受信頻度の日周リズムは,放流魚が海底に巣穴を掘り,昼間は巣穴外,夜間は巣穴内に滞在するといった日周行動が反映されたものと考えられました。一方で,人工種苗の中には受信頻度の日周リズムが昼夜で逆転した個体も見られました(図3)。今後は,本種の日周行動を生態学的に説明すること,天然魚と人工種苗の行動をより詳細に比較すること,および両者に相違が生じる原因を究明することに取り組んでいきたいと思います。

Hydrobiologia (in press), Fisheries Science 72(3) 2006 (in press)

メコンオオナマズPangasianodon gigasへの発信機装着方法の比較

2006年5月25日 報告者 京都大学大学院情報学研究科 三田村 啓理

メコンオオナマズ(図1)は東南アジアを流れるメコン川の固有種で、最大約3mにもなる大型の魚類である。本種は、近年のメコン川流域の開発や乱獲などが原因で絶滅が危惧されている。そのため東南アジア諸国においては本種を保全するために、バイオテレメトリーによる野生個体の季節移動や行動圏、並びに人工種苗の自然水域への放流後の生残率などの把握が期待されている。そこで本種種苗(N=30、全長:52-94cm)を用いて超音波発信機(V16-4H、長さ:65mm、直径:16mm、水中重量:12g、Vemco、Soctia、Canada)の装着方法を検討した。本研究では、胸鰭に超音波発信機を装着した実験区、外科手術により腹腔内に発信機を装着した実験区(図2)そして発信機未装着の対照区を55日間蓄養して、それらの致死率および成長率を調べた。実験期間中、全ての個体が生残した。発信機装着部位に化膿は見られなかった。また3区の成長率に差はなかった。実験終了時には外部装着区の発信機全てが脱落したのに対して、腹腔内装着区の発信機は全て脱落しなかった。これらの結果より、メコンオオナマズの移動パターンや行動を長期間観測するためには、外部装着よりも腹腔内装着が適していることが明らかとなった。今後、バイオテレメトリーを用いたメコンオオナマズの行動および生態の解明が望まれる。

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図1 メコンオオナマズ

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図2 腹腔に超音波発信機を装着

H. Mitamura, Y. Mitsunaga, N. Arai, T. Viputhanumas. Comparison of two methods of attaching telemetry transmitters to the Mekong giant catfish, Pangasianodon gigas. Zoological Science. 2006: Vol.23; 235-238.

シロザケの繁殖行動のモニタリング -河川増・濁水はサケの産卵を妨げる-

2006年5月25日 報告者 北海道大学大学院水産科学院 津田 裕一

http://bg66.soc.i.kyoto-u.ac.jp/biologging/wiki_image/Digging12.wmv Movie: nest digging(穴掘り)の映像 (実験池内)

水中では様々な物理的制約があるために、特に自然環境下での魚の行動を連続観察することはとても難しい。そこで、私たちは魚の動きを連続的に記録する加速度データロガーを使って、サケ科魚類の繁殖行動を自動モニタリングする方法を確立した。 ビデオと加速度データロガーを使ってサケの繁殖行動の同時記録を行い、両者のデータを照らし合わせることで、加速度の記録で行動を識別できるか試みた。その結果、加速度の記録のみでメスの行動を8種類に分類することに成功した:swimming, nosing, exploratory digging, nest digging(Movie), probing, oviposition, covering and post-spawning digging (図1)。

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図1 A:分類されたメスの行動の加速度記録。Diggingはさらに4つに分類可能。B: 10分毎の各行動の頻度。加速度波形の特徴から行動を識別することで、時系列上で行動を連続的に見ていくことができる。

このモニタリング方法を使って、直接観察の困難な大雨後の増・濁水状態の川との通常状態(クリアな緩やかな流れ)の川におけるメスの行動記録を比較して、河川環境の変化が産卵期のメスの行動にどのような影響を与えるのか明らかにした。 川が通常状態では上記8つの行動をすべて行って産卵を達成していたが、増・濁水状態では産卵場所を探す行動(nosing, exploratory digging)とswimmingのみ記録され、産卵が行われなかった。記録期間中の行動時間配分は、産卵行動に費やした割合は通常状態では産卵行動に7.2%、増・濁水状態では1.5%であった。また最も多くの時間を占めたswimmingのうち、通常状態では明確に尾鰭を振動させて遊泳していたのが15.6%であったが、増・濁水状態では78%を占めた(図2)。

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図2 両状態における行動時間配分。通常状態での産卵行動への時間配分では、最も多くの時間を産卵場所を探す行動(nosingとexploratory digging)に費やしていた。

つまり、通常状態のメスに比べて、増・濁水状態では強制的に尾鰭を振動させる遊泳行動に限定されることで、繁殖の機会を失うことに加え、繁殖行動へのエネルギー蓄積も減少しただろうと考えられる。本研究の結果から、河川の増・濁水状態がメスザケの産卵行動に直接影響を与えていることが明らかになった。

Y.Tsuda, R. Kawabe, H. Tanaka, Y. Mitsunaga, T. Hiraishi, K. Yamamoto and K. Nashimoto: Monitoring the spawning behaviour of chum salmon with an acceleration data-logger. Ecology of Freshwater Fish (in press)

2005年の発見

ペンギンとエネルギー保存則の関係

2005年8月25日 報告者 東京大学海洋研究所 佐藤克文

http://bg66.soc.i.kyoto-u.ac.jp/biologging/wiki_image/EmperorLeap.mov

まずは動画を見ていただきたい。映っているのはエンペラーペンギン。氷に開いた穴から次々に氷上に飛び上がって来る。最後の1羽はギリギリのところで高さが足りず、穴の中に逆戻りしてしまった。彼らは氷に開いた穴を通って水中に餌採りに行き、しばらく経ってから再び穴を通って氷上へ戻ってくる。水面から氷上までの高さは数十センチメートル。氷の穴の側面には足がかりとなる突起がないため、ペンギンが無事氷上にまで飛び上がれるかどうかは、水面から飛び出す時の速度が重要となる。この状況には、高校の物理の授業で習ったエネルギー保存則を当てはめることができる。水面から飛び出す瞬間の運動エネルギーが全て位置エネルギーに転換すると考えれば1/2mV2 = mghが成り立ち、式を変形する事で飛び上がる高さに必要な飛び出し速度がV=(2gh)1/2と計算できる(V: 速度,g: 地球の重力加速度、h: 水面から氷上面までの高さ、m: ペンギンの体重)。

ペンギンが毎回ぴったりの高さで氷上に飛び上がってくるということは、ペンギンが穴の高さに応じて飛び出し速度を調節していることを意味する。そこで、今度は意図的に穴の高さを変えてみた。氷の縁を巨大ノミで削り、2つある穴の片方をもう一方よりも低くしてやったのである(写真)。

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ペンギンの背中に付けたデータロガーによって測定した速度データをみると、高い方の穴から飛び出す時の速度は、低い穴から飛び出す時に比べて大きな値を示していた。つまり、ペンギンはこれから自分が飛び上がろうとする穴の高さに応じて、飛び出し速度を調節していたのである。さらに観察結果を細かく解析したところおもしろいことがわかった。上手に飛び上がっているように思えるペンギン達も、時々飛び上がりに失敗する(動画の最後の個体)。失敗した次のジャンブで彼らはどう振る舞うであろう?予想に反して、高い穴で失敗した後、低い穴に移動するといった傾向は見られなかった。失敗した次のジャンプでは、同じ穴を使う場合ともう一方の穴を使う場合が半々の確率で見られた。代わりに、ペンギン達は次のジャンブでは飛び出し速度を上げる事で成功を期するという傾向が見られた。

南極大陸周辺の定着氷上で繁殖するエンペラーペンギンは、氷の上と餌のある水中を頻繁に往復している。水中で彼らを襲う捕食者としてはヒョウアザラシやシャチがいるが、氷上には彼らを襲う捕食者はいない。エンペラーペンギンにとって水中から氷上への飛び上がりに失敗することは、襲われる危険性を高める事につながる。これから飛び上がろうとする穴の高さに応じて飛び出し速度を調節したり、失敗したジャンプの次に成功を期してより大きな速度で飛び出したりする事は、彼らにとっては捕食されることを防ぐという意味で重要なのであろう。

Katsufumi Sato (katsu at wakame.ori.u-tokyo.ac.jp), Paul J. Ponganis, Yoshiaki Habara, Yasuhiko Naito. Emperor penguins adjust swim speed according to the above-water height of ice holes through which they exit. Journal of Experimental Biology (2005) 208, 2549-2554.

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ペンギンは浅い潜水において気嚢中の酸素を消費していた

2005年8月25日 報告者 東京大学海洋研究所 佐藤克文

肺呼吸動物の潜水時間は、体内の酸素貯蔵量とその消費速度に大きく左右される。 酸素は、血液中・筋肉中・呼吸器官中に蓄えられるが、その配分は哺乳類と鳥類で大きく異なる。例えばアザラシ類では呼吸器官内に気体として 蓄えられる酸素量は全体のわずか4%程度にすぎないが、ペンギン類では全酸素量の40〜50%が肺及び気嚢中に気体として蓄えられる。 肺と気嚢はつながっているため気嚢中の空気と肺の中の空気が良く混ざりあっていれば、気嚢中の酸素も潜水中に消費されるであろうと推察されるが、 過去にそれを野外で直接測定した例は無かった。

私は、2003年にアメリカ南極基地において実施されたエンペラーペンギン調査に参加した。基地周辺の定着氷上を歩いているペンギンを捕獲し、 氷上に設けた柵の囲いの中に放す。囲いの中の氷には人工的に2カ所穴を開けてやる。ペンギン達は水中で餌を捕まえるためにこの穴を通って水中に潜っていく。 周囲1km以内に自然の穴がない定着氷の上に実験場所を設けているために、ペンギン達は再び同じ穴から柵の中に戻ってくるという仕組みである。 この状況下でペンギンにデータロガーを付けて、酸素分圧センサーを気嚢中に挿入し酸素分圧の連続測定をおこなった。

潜降と共に高まる水圧に対応し、酸素分圧も初めは上昇していく(図1)。しかし、潜水終了時の酸素分圧は潜水を始める前の値(136±8 mmHg, 19.6±1.2 %)よりも小さく0-80 mmHg (0-11.7 %)となった。潜水時間が長くなるほど、潜水終了時の酸素分圧は低下する傾向が見られた(図2)。 すなわち、気嚢中の酸素は潜水中に消費されていたのである。

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図1 潜水プロファイルに対応した気嚢中酸素分圧の挙動

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図2 潜水時間と潜水終了時の気嚢中酸素分圧。A:酸素分圧(kPa, mmHg)およびB:酸素割合(%)

今回の実験ではペンギン達の潜水深度が100mより浅いものがほとんどで、潜水時間も最長11分と、本種の最高記録よりもはるかに浅く短いものであった。 この浅い潜水においては気嚢中の酸素が消費され、すなわち肺におけるガス交換が行われていたわけだが、もっと深くて長い潜水においても呼吸器官内の空気と 血液の間でガス交換が行われるのかどうかが気になるところである。ガス交換が行われるということは、空気中の窒素も血液に溶け込むことを意味し、 組織中で消費されることのない窒素は浮上の際に組織中や血管中で気化して傷害を引き起こす可能性がある(減圧症)。呼吸器官内に空気を蓄えて潜水するペンギンが、 いかにして減圧症を回避しているのかを調べる事が、この日米共同研究の最終目的である。

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写真1 実験を行った囲い

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写真2 実験固体と筆者

T. Knower Stockard, J. Heil, J.U. Meir, K. Sato, K.V. Ponganis, and P. J. Ponganis. Air Sac PO2 and oxygen depletion during dives of emperor penguins. Journal of Experimental Biology (2005) 208, 2973-2980.

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道草しても回り道せずに帰れます

2005年7月20日 報告者 北海道大学大学院理学研究科COE研究員 田中 秀二

サケはじゅうぶんに成熟すると、餌場のベーリング海から離れて、 生まれ故郷の日本の川まで大規模な回帰回遊をする。 しかし、その回遊の間にサケがどう過ごしているのか、 どれくらい正確に目的地の方向を指しているか、などまだ分からない点が多い。 本研究では、 回遊中のサケの遊泳速度や遊泳深度を長期間にわたって記録することに世界で初めて成功した。 サケは2ヶ月あまりの回遊の間、 意外なほど多くの時間を、海中を忙しく上下して採餌のために割いていたことが明らかになった。 しかも、そんな採餌の時間も含めて、 サケが回遊中に自ら移動したと計算される水平方向の距離は、サケが真っすぐに回遊したとしても、 目的地まで少し足りない。 サケはよほどぴたりと目的地の方向へ自らを定めているばかりか、海洋の流れにも上手く乗っているらしい。

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図1 小型記録計を装着されたサケの放流地点と再捕地点。2点間の距離は、およそ2760 kmだが、サケが水平方向に自ら遊泳した距離はおよそ2580 km。

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図2 回遊中のサケの遊泳深度、経験水温、遊泳速度の時系列記録。サケが採餌のために上下移動するので水温が短い間に大きく変動するのが分かる。 サケの遊泳速度の記録は途中で途切れたが、平均0.62 m/sであった。

Tanaka, H., Y. Naito, et al. (2005). "First record of the at-sea swimming speed of a Pacific salmon during its oceanic migration." Marine Ecology Progress Series 291: 307-312.

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注意深いイルカは、先をお見通し Careful Porpoises Inspect Ahead in Advance

2005年6月27日 報告者 水産工学研究所 赤松 友成

自由に泳ぐ小型のイルカ(スナメリ)は、黙って泳ぐ前に、その前方をソナーで確認している。確認距離は数十メートルに及んでおり、 かれらが実際に危険や報酬に出会う前に十分な「安全余地」を確保している。 一度、スナメリが餌らしきものを確認すると、接近中もソナーの焦点をその標的に合わせる。 私たちが音楽を聴きながら車を運転するとき、CDを換える前に前方確認をしなければならない。 でなければ、すぐ事故になる。動線上の物体を確認しておくことは、動く生物にとって基本的な認知機能である。

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図1 スナメリはまず事前に前方探索を行ってから、黙って泳ぐ。 事前探索距離から出る前に、再びソナーを使う。

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図2 直線的に減少しているパルス音間隔(ICI)は、接近しつつある標的に、 ソナーによる探索距離を調節していることを示している。探索の終わりには遊泳速度が急減している。 これは、餌獲りのための急旋回行動と考えられる。

Proc. R. Soc. Lond. B (2005) 272, 797-801.

2004年の発見

どうして斜めに潜るのか?

2004年12月1日 報告者 東京大学海洋研究所 佐藤克文 fileSato041201.pdf

翼で潜水する動物のストロークとグライド

深く潜水する海鳥は深度とともに変化する浮力にあわせて前進頻度を調節する

2004年12月1日 報告者 北海道大学大学院水産学研究科 綿貫 豊 fileWatanuki041201.pdf

手のひらの推進力と身体の抵抗からみた最速の泳法--イアン・ソープのスピードの謎を解く

2004年12月1日 報告者 防衛大学校システム工学群機械工学科 伊藤 慎一郎 fileIto041201.pdf

三次元でどのように振る舞うのか?

2004年12月1日 報告者 テキサスA&M大学 三谷 曜子 (現在の所属:東京工業大学) fileMitani041201.pdf

家猫の行動を加速度計が秒単位で”描”写

2004年10月2日 報告者 琉球大学 渡辺伸一 fileWatanabe_Shinichi041002.pdf

カメラロガーがとらえたペンギンの集団潜水

2004年10月2日 報告者 国立極地研究所 高橋晃周 fileTakahashi041002.pdf

ペンギンの行動からオキアミの生態を探る

2004年10月2日 報告者 国立極地研究所 高橋晃周 fileTakahashi041002-2.pdf

切り離し回収システムでバイカルアザラシ調査

2004年8月10日  報告者 東京大学海洋研究所 渡辺佑基 fileWatanabe040810.pdf

母アザラシが背後を泳ぐ子アザラシを撮影

2004年8月10日 報告者 東京大学海洋研究所 佐藤克文 fileSato040810.pdf

ウエッデルアザラシに画像記録計を装着

2004年8月10日 報告者 東京大学海洋研究所 佐藤克文 fileSato040810-2.pdf

ウエッデルアザラシの潜水の仕方の違いを加速度記録で解析

2004年8月10日 報告者 東京大学海洋研究所 佐藤克文 fileSato040810-3.pdf

ペンギンは途中から羽ばたきを止めて浮上している

2004年8月10日 報告者 東京大学海洋研究所 佐藤克文 fileSato040810-4.pdf

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Last-modified: 2013-09-11 (水) 13:44:53 (2598d)